(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

散歩する侵略者/前川知大(短評)

「散歩する侵略者」は、ご存知劇団イキウメの出世作とも十八番ともいうべき作品で、座付き作家前川の現時点での代表作といっていいだろう。わたしは、赤堀雅秋演出が最初で、初演を見逃したイキウメ版はようやく再演で観たが、その面白さに舌を巻いた。 内容…

グラデーション/永井するみ(短評)

理論社の〈ミステリーYA!〉の一冊として刊行された「カカオ80%の夏」がなかなか好評の永井するみ。この『グラデーション』は、足掛け3年にわたる「小説宝石」の連載をまとめたものだが、ミステリではない。ひとりの少女の14歳から23歳までを追いかけて…

恋するからだ/小手鞠るい(短評)

アメリカ、ニューヨーク市在住。「詩とメルヘン」出身、1993年にベネッセの海燕文学新人賞を受賞したこともある小手鞠るいの書き下ろし長篇で、ハワイを舞台にアメリカ国籍日本人少女が主人公の日常と恋の物語である。 ヒロインが等身大であるか、彼女の心情…

リロ・グラ・シスタthe little glass sister/詠坂雄二(短評)

〈メフィスト賞〉の二匹目の泥鰌といった感じの〈Kappa-One登竜門〉だけれど、「本格推理」の常連たちがそのまま持ち上がった第一回(石持浅海、加々美雅之、東川篤哉、林泰広の四人)を除くと、どうもぱっとしない印象を抱いているのはわたしだけか。いや、…

生還者/保科昌彦(短評)

「相続人」で第10回日本ホラー大賞の優秀賞を受賞した作者が、初めてホラー大賞を主宰する角川書店の引力圏を離れて書き下ろした長篇小説。(「相続人」をはじめ、過去の「オリフィス」「ゲスト」はすべて角川ホラー文庫)才能のある人なのに去年は新作の上…

さよなら、日だまり/平田俊子(短評)

芝居のことを書き留めるので精一杯なため、それ以外の記録がおろそかになってしまって、いかん、いかん。本作は、過去に錚々たる受賞者が並ぶ野間文芸新人賞を2005年に受賞した女性作家の新作である。(受賞作は、「ふたり乗り」) 女ともだちの紹介で、よく…

さりぎわの歩き方/中山智幸(短評)

そもそも出版社サイドにやる気がないのか、素っ気ない装丁の本体にも、文藝春秋のホームページにも、〈来るべき作家たち〉というシリーズ(叢書?)が、どういう趣旨のものかってのが、説明されていない。とはいえ、木村紅美(くみ)の『風化する女』、赤染…

橋本 紡/空色ヒッチハイカー(短評)

ダークでネガティヴな青春小説という趣もあった岡崎隼人の作品とは対照的な場所に位置する本作。作者の橋本紡はラノベ方面からの越境者(第四回電撃ゲーム小説大賞を受賞し、その受賞作でデビュー)だけれど、この巧さは只者ではないと見た。 素敵な女の子、…

岡崎隼人/少女は踊る暗い腹の中踊る(短評)

あまりいい評判が伝わってこない第34回メフィスト賞受賞作。しかし、わたしは評価します。謎の殺人鬼に遭遇し、連続幼児誘拐事件に巻き込まれた19歳の少年が、血みどろの惨劇を通じて、自らのアイデンティティーに直面する。ま、そういう意味でノワールと…

デイヴィッド・ミッチェル/ナンバー9ドリーム(短評)

3度落選でも、ノミネートされたのがブッカー賞だったら、それだけで立派かも、デイヴィッド・ミッチェル。〈新潮クレスト・ブックス〉からの刊行なので、文学系なのだけれど、これはエンタテインメント系の読者にも十分アピールするとみた。高橋源一郎も、…

中村航/絶対、最強の恋のうた(短評)

昨年〝100回泣くこと〟(2005年・小学館)で大きくブレイクした感のある中村航。出発点の文藝賞受賞作〝リレキショ〟(2002年・河出書房新社)も悪くなかったけど、男性作家6人による恋愛小説アンソロジー〝I love you〟(2005年・祥伝社)に収められた〝…

崖っぷちの佐藤友哉にとって〝1000の小説とバックベアード〟は転換点となるのか?

サブカル方面では一部にアイドル的なもてはやされ方をしている佐藤友哉は、2001年に〝フリッカーズ〟でメフィスト賞受賞という出自もあって、ミステリ・ファンとしてもちょいと気になる存在だ。そのナルシズムと線の細さは、ややもすると読者にそっぽを向か…

ピコーン!/青山景+舞城王太郎(短評)

ご本尊の舞城は、〝新潮〟に連載していた〝ディスコ探偵水曜日〟がいよいよ第三部で完結し、夏には書き下ろしの第四部を追加して単行本化がようやく決まったという。で、こちらは、以前雑誌掲載されたまま半分忘れられかけていた青山景の〝ピコーン!〟(〝…

赤朽葉家の伝説/桜庭一樹(短評)

ラノベから越境してきた一昨年の「少女には向かない職業」を読んでマークしていた桜庭一樹だけれども、早くも決定打か。鳥取県の旧家を率いる女性たちの3代にわたるサーガである。 3人の女性のそれぞれの年代記を順に並べた3部構成。千里眼を謳われた祖母の…

ダブル/永井するみ(短評)

まったく評論家受けしなかったのかしらん、〝このミステリーがすごい!〟のベストテンではすっかり無視されてしまった永井するみの〝ダブル〟だが、実は昨年の収穫の一冊に数えていい傑作である。1996年に〝隣人〟で第18回小説推理新人賞を受賞し、その翌年…

ピース/樋口有介(短評)

樋口有介が、今は亡きサントリーミステリ大賞の登竜門をくぐったのは1988年のことだから(〝ぼくと、ぼくらの夏〟で第6回読者賞を受賞)、来年はデビュー20周年を迎えるのか。しかしベテランの域に達しながら、倦むどころか、いまだに一皮むけた新作を届け…

〝SPEEDBOY!〟のパラレルな世界

もしかしたら。いや、もしかしなくても、2004年10月の短篇集〝みんな元気。〟以来2年ぶりの舞城王太郎の新刊である。この〝SPEEDBOY!〟は、群像2006年1月号に掲載された作品に修正、加筆したもののようで、講談社の新叢書「講談社BOX」の第一回配本の中の…

〝アークエンジェル・プロトコル〟にみるSFとハードボイルドの相性

アメリカ私立探偵作家クラブ賞*1受賞という鳴り物の入ったSFミステリ。本作が受賞したのは正賞にあたる最優秀長篇賞ではなく格落ちのペイパーバック賞だけれど、過去の受賞者にはウォーレン・マーフィ、アール・W・エマースン、ロブ・カントナー、ハーラ…

少年少女よ、〝神様ゲーム〟を読みたまえ

ミステリがルールの上に成り立っている文学であるということは、いうまでもない。しかし、一方では何かが成長していく過程において、殻を破ることは避けられない必然だということも事実なのであって。そういう意味で、ミステリ小説が進化を遂げようとしたと…

〝少女には向かない職業〟にみる桜庭一樹に向く職業

女性でもなければ、ティーンエイジャーでもないわたしが、この小説を評して〝少女のビビッドな感性〟などというのは、さすがに片腹痛い。しかし、桜庭一樹の『少女には向かない職業』は、まさに十代のある一時期をそのまま切り取って小説にしたような、瑞々…

〝風味絶佳〟の甘〜い誘惑

キャラメルが表紙いっぱいにならぶ装丁を見て、ふと恋愛は人生のおやつのようなものかもしれない、と思った。確かに、恋愛のない人生というのも存在するかもしれないが、しかし、それはおよそつまらないものに思えるからだ。人間、主食だけでは味気ない。甘…

『ハイ・フィデリティ』にみる恋とアンソロジー・テープの謎

恋に落ちたとき、人は奇妙は行動をとるものである。その最たるものは、音楽のアンソロジーを作ることではないか。かくいうわたしも、貧しい恋愛経験に正比例してではあるが、好きな女の子のためにせっせとカセットテープのアンソロジーを作ったことがある。…

恋愛をこえた関係の尊さを語りかける究極の恋愛小説『A2Z』

人生もとうに半ばを過ぎ、恋愛などというものにすっかり無縁の身となってしまったわたしだが、色恋沙汰への興味だけはいまだ尽きない。しばしば人生は謎に満ちたものだと思うのだが、その最大のものは恋愛にまつわるものではないか。恋愛さえなければ、人の…

キングのようでキングじゃない 『BT’63』

作家は、よく化けると言われる。そういう瞬間に立ち会うことが、読者にとっては冥利だとも言う。池井戸潤という作家にとって、そういう節目は『BT‘63』(2003年6月、朝日新聞社刊)という作品ではなかったかと思っている。98年に「果つる底なき」…

恩田陸の新作『ユージニア』の開いた閉じ方

去年の話題作『夜のピクニック』は、いわば恩田陸のもうひとつの顔だった、と言ってもいいだろう。田舎、高校生、親友などのキーワードで括られるノスタルジーと暖かさが心にしみる物語で、先の直木賞の候補にあがらなかったのは、本当に不思議でならない。 …

『終の棲家は海に臨んで』のどこにも属さない魅力

ジャンル分けが不能の小説というのがある。ミステリ・ファンの中には、ジャンル間の見えない境界線を気にする人が比較的多いように思うのだけれど、わたしは気にしない。というか、むしろそういう小説の方が好きだ。予測不能の面白さもあるし、こちらの経験…

『煙か土か食い物』の文庫化を祝す

この度、めでたく舞城王太郎の『煙か土か食い物』が講談社文庫に入った。いや、とっくに読んでるし、文庫化に際して作者が手を入れたとかいう話も聞かないので、いまさらでもないのだけれど。でも、贔屓の舞城の、それも大贔屓のこの作品が、新たな形で再び…

マーシャ・マラーと再会

それほど熱心に古書店をのぞくわけではないが、目にとまるとついフラフラと店内に吸い込まれてしまう。学生時代に、絶版本を捜し求めて、都内とその周辺の古書店を彷徨い歩いた頃の後遺症のようなものかもしれない。たいした買い物があるわけではないが、手…