(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

ピース/樋口有介(短評)

樋口有介が、今は亡きサントリーミステリ大賞の登竜門をくぐったのは1988年のことだから(〝ぼくと、ぼくらの夏〟で第6回読者賞を受賞)、来年はデビュー20周年を迎えるのか。しかしベテランの域に達しながら、倦むどころか、いまだに一皮むけた新作を届けてくれるのは、読者として本当に嬉しい。
舞台は秩父。死体をバラバラにする異常殺人が連続して起きるが、被害者たちの繋がりを警察は見出せない。作者お得意の閉じられたコミュニティの中でお話がころがっていくが、ぱっとしない呑み屋に集まる人々の人間模様を濃密に描きながら、ミッシングリンクを繋ぐ意外な真相に迫っていく展開は、スリルがあって小気味よい。
いくつかの意味を重ねたタイトルも素晴らしいが、最後に読者が案内されるとんでもない真相には、あっと言わされる。犯人のややもすると説得力を欠く動機の弱さをねじ伏せるだけの衝撃力を秘めていると思う。犯人の動機に登場する人物は、おそらく実在する筈で、問題が生じないかちょっと心配になるが、ミスリードや多重解決もふんだんに散りばめて、ミステリとして非常に読み応えがある。そもそも地の小説が面白いのだが。必読。

ピース

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