(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

リロ・グラ・シスタthe little glass sister/詠坂雄二(短評)

メフィスト賞〉の二匹目の泥鰌といった感じの〈Kappa-One登竜門〉だけれど、「本格推理」の常連たちがそのまま持ち上がった第一回(石持浅海、加々美雅之、東川篤哉林泰広の四人)を除くと、どうもぱっとしない印象を抱いているのはわたしだけか。いや、ONEはOur New Entertainmentの略とのことだから、これはコアなミステリ・ファンとしての偏った意見かもしれないが。
しかし、ようやくわたしみたいな読者にも楽しめる作品が登場した。本作は、2006年上期の最終選考に残っていた作品で、そのときのタイトルは「月曜のグラス・ウォマン」。屋上で生徒の墜落死体が見つかり、名探偵の異名をとる主人公が、自分の無実を証明してほしいと依頼人から頼まれる。
文体は今どきのラノベ調、カラフルな本づくり(活字の色が四色!)、さらにはぎょっとさせられる冒頭の目撃シーンなどなど、あらら、手にとる本を間違ったかと一瞬思うが、主人公の孤独な佇まいや、彼を取り巻く饒舌な登場人物たちの物語を追ううちに、今風とはいえハードボイルドといえなくもないか、と思えてくる。
しかし、圧巻なのは、終盤のたたみかけで、これでもかとばかりにミステリ的な展開を読者につきつけてくる。伏線も、ミスリードも、デビュー作でここまでやってくれれば、さすがに文句はない。なるほど、綾辻行人を推薦者に引っ張り出した理由に得心がいった。
このニューフェイスの次の一手が非常に楽しみだ。

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)