(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

『煙か土か食い物』の文庫化を祝す

この度、めでたく舞城王太郎の『煙か土か食い物』が講談社文庫に入った。いや、とっくに読んでるし、文庫化に際して作者が手を入れたとかいう話も聞かないので、いまさらでもないのだけれど。でも、贔屓の舞城の、それも大贔屓のこの作品が、新たな形で再び世に出るというのは、なんとなく嬉しい。
ここのところ『阿修羅ガール』(新潮社)で三島由紀夫賞を受賞したり、『好き好き大好き超愛してる。』(講談社)で芥川賞の候補になったりと、文学のメインストリームでもずいぶんと有名な存在になったけれど、でもわたしはこの『煙か土か食い物』(初刊は2001年3月講談社ノベルズ、ちなみに第19回メフィスト賞を受賞)に始まる奈津川家サーガともいうべき一連のミステリが大好きだ。ミステリとしてのしっかりした仕掛けと比類なき饒舌な文体のミクスチュアが生み出す独特のはちゃめちゃな舞城ワールドは、激しく、どぎつく、そして心優しい。
現在までのところ、奈津川家サーガは第二作の『暗闇の中で子供』(2002年9月講談社ノベルズ)までリリースされていいて、待ちに待った第3作が今年の秋に上梓されるという噂があったけど、実現はしていない。講談社が予告している来春の『新世代ミステリーフェア』に、浦賀和宏佐藤友哉らに交じって、舞城の名があがっているので、期待したいところなんであるが、果たしてどうなることか。ともあれ、文庫化の機会に、『煙か土か食い物』は、一見するとエグさが目立つけど、ミステリ・ファンに留まらず、すべての小説ファン必読の書であると言っておきたい。

ところで、奈津川家サーガからのスピンオフで『世界は密室でできている。』(2002年4月講談社ノベルズ)という作品があるが、わたしはこの作品への愛も非常に深い。そしたら、講談社の文庫情報誌〝IN☆POCKET〟2004年12月号の〝舞城王太郎特集〟で、豊崎由美さんも同じようなことを言っている。まさに、わが意を得たり!サーガにも登場するルンババという名探偵の若き日を描くこの作品は、密室テーマのミステリそっちのけで、優しさあふれる青春小説になっているのだ。この作家の感性は、かくも瑞々しいのである。

その『世界は密室でできている。』の本の作りは、作者自身の自作コミックをちりばめるというユニークなものだったけど、その企画の延長線上ともいうべき〝舞城王太郎のバラバラポップ漫画〟という企画をご存知だろうか?『みんな元気。』の刊行記念イベントとして新潮社が行ったこの企画は、新宿のブックファーストを基点に、山の手線に沿って所在する書店に飾られた直筆のポップが、続けて読んでいくとコミックになっている。くーっ、そんなことやるか、ふつう。残念ながら、もう終わってしまっているけれど、でもでも、読みたいよね、ファンなら。で、こういうブログを見つけましたので、ご案内します。ぜひご覧ください。と書いたところで、実はこの企画終わっていない、との噂が…。全国各地の書店で、新たなポップ発見の報告が入ってきている。おいおい、いったい、どこまでやるんだ!