(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

恩田陸の新作『ユージニア』の開いた閉じ方

去年の話題作『夜のピクニック』は、いわば恩田陸のもうひとつの顔だった、と言ってもいいだろう。田舎、高校生、親友などのキーワードで括られるノスタルジーと暖かさが心にしみる物語で、先の直木賞の候補にあがらなかったのは、本当に不思議でならない。
しかし、『球形の季節』をルーツとするたおやかで心地よい世界を描く一方で、恩田陸には常に小説という分野に挑戦的な姿勢も失わない。最近では、『Q&A』のインタビューだけで構成するという大胆な試みに驚かされたが、それが趣向だけに終わらずに、終盤とんでもない世界を出現させたのには、心底たまげた。そして、年が明け、早くも次の問題作が登場したようだ。〝KADOKAWAミステリ〟〝本の旅人〟と連載を渡り歩いた長篇『ユージニア』がようやく本にまとまった。
あの夏の出来事。〝丸窓のお屋敷〟と近隣に親しまれた旧家で、家族や来客が17人も死亡するという事件が起きた。多くの知人が招かれて催された米寿の祝いでふるまわれたジュースに毒が入っていたのだ。やがて犯人と目される男が自殺し、事件は一件落着となったが、事件をまのあたりにした少女が成長し、事件の調査を行った。それから、さらに時間が経過し、ひとり生き残った少女をめぐって、失われた無差別殺人にまつわる記憶が、掘り起こされていく。
章ごとに、まったく別の小説から成り立っているかのような構成の妙味に、まず驚かされる。事件の再構築を通して描かれていくのは、舞台となる地方都市の変遷の模様であり、そういう意味ではこの小説のひとつのテーマは、街であるともいえるだろう。過去の毒殺事件を、さまざまな人の証言や調査を通じて浮かび上がらせていく手法は、ミステリらしい面白さがあるけれど、どこか奇妙な味わいがあるのは、ひとり生き残った少女の存在感が、章を追うごと強烈に浮かび上がってくるからだろう。
恩田陸は、クリスティの『スリーピング・マーダー』やブランドの『はなれわざ』の文庫解説などを読むと、保守的なクラシック・ミステリを好んでいるようだが、いったん小説を書き始めると、非常にプログレッシブな取り組みを見せる。それを作者自身、〝開いた〟書き方と呼んでいるようだが、すべての謎を完璧に解き明かすのではなく、読者に委ねる部分を必ず残すその小説作法という観点から眺めると、この『ユージニア』はそのひとつの完成形といえるのではないか。
〝恩田版「ツイン・ピークス」!!〟というコピーも使われているようだが、あたらずとも遠からず。 その幕切れの不思議な余韻に、この作品のすべてがあるといっても過言ではないかもしれない。

ユージニア

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