(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

少年少女よ、〝神様ゲーム〟を読みたまえ

ミステリがルールの上に成り立っている文学であるということは、いうまでもない。しかし、一方では何かが成長していく過程において、殻を破ることは避けられない必然だということも事実なのであって。そういう意味で、ミステリ小説が進化を遂げようとしたとき、そこにはちょっとしたジレンマが出現する。なぜなら、殻を破ること、すなわちルールを破ることは、ミステリであることのアイデンティティそのものを破壊してしまう可能性があるからだ。
そんな掟破りを事もなげにやる作家が、麻耶雄嵩である。今回の『神様ゲーム』も、そんな作者の破戒の精神があますところなく発揮されている。主人公の芳雄は小学校高学年の少年である。同じ町内に住む学校の仲間たちと探偵団を結成し、秘密基地を作ったりして遊んでいる。仲間の中には憧れのミチルちゃんがいるが、親友の英樹は住んでいる町が違うので、仲間に迎えることができない。
ある日、芳雄は当番で掃除の最中に、クラスメートの鈴木君に話しかける。転校生で、あまり目立たない存在だった鈴木君だが、彼は芳雄に自分は神様だと告げる。この宇宙で、彼の判らないことや、思い通りにならないことは一切ないと淡々と語った。鈴木君は、未放映のTV番組の内容も、そして最近このあたりで起こっている連続猫殺しの犯人名も簡単に教えてくれた。
探偵団の面々は、猫殺しの容疑者をマークするが、そのさ中、密室状況の古井戸の中で芳雄の親友英樹が死体になって見つかる。親友の死に思い悩み、苦しんだ挙句、芳雄は鈴木君に、英樹殺しの犯人に天誅を食らわすように頼みこむ。しかし、その直後に死んだのは、まさかと思える人物だった。
子どもたちの世界を、いかにもジュブナイルのタッチで見事に描いている。さらにミステリとしても、親友英雄の密室状況の死をめぐる謎解きにしても、意外な真犯人へ到達する論理的な筋道にしても、非常によく練られていると思う。ただし、最後に待ち受ける本当に意外な結末の直前までは…。
いや、ミステリの話をするとき、最後にサプライズエンディングが待ち受けていることを明らかにすること自体がタブーなのだが、この「神様ゲーム」に関しては、それを抜きには語れないだろう。確かに意表を突かれるし、びっくりもする。しかし、明かされる真相に、合理的な伏線や手がかりがあったかというと、どうも思い当たるものがない。それでも、この結末を持って来るあたりに、麻耶雄嵩という作家の孤高のミステリ感が色濃く現れているように思う。また、神という存在が、一種のメタミステリとしての仕掛けとしてではなく、麻耶ミステリのメタファーとして象徴的なのがいかにも面白い。
児童向け叢書の一冊ということもあって、「子どもには読ませられない」という書評ばかりが目についた本作だが、個人的には読書好きの少年少女にこそこの本を積極的に進めてみたい気がする。そもそも本好きの彼らには、大人のわれわれが被保護者として見下す以上の耐性と新しい価値観への好奇心があるように思えるのだが。原ますみの装画と挿絵もいい味を出していると思う。

神様ゲーム (ミステリーランド)

神様ゲーム (ミステリーランド)