(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

生還者/保科昌彦(短評)

「相続人」で第10回日本ホラー大賞の優秀賞を受賞した作者が、初めてホラー大賞を主宰する角川書店の引力圏を離れて書き下ろした長篇小説。(「相続人」をはじめ、過去の「オリフィス」「ゲスト」はすべて角川ホラー文庫)才能のある人なのに去年は新作の上梓がなく、もう作家稼業から足を洗ったのでは、と心配していた。
台風による降雨で、鄙びた旅館が山崩れに呑みこまれた。30人もの死者を出す大惨事となったが、7人の男女が奇跡的な生還を果たし、マスコミにも取り上げられる。しかし、やがてその生還者たちが、ひとりまたひとりと不審な死を遂げていることが判る。
物語の中心にいるのは、生還者のうちのひとり、図書館に勤務する青年で、彼は事故で恋人を失ってしまった。その彼の一人称で語られていく精神の崩壊過程が、サイコスリラーの緊張感で読者を引っぱっていく。
ところが、終盤、読者は予想だにしなかった方向から不意打ちを喰らう。これが、なかなか快感。作者は、ホラーの登竜門をくぐったが、もともとミステリ作家の資質が十分にある人だと思っていた。なので、今回の作風のシフトは正解だと思う。本作を、新たなデビュー作として、ミステリ方面へ進出するなら、さらに楽しみに存在になると思う。必読。

生還者

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