(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

さりぎわの歩き方/中山智幸(短評)

そもそも出版社サイドにやる気がないのか、素っ気ない装丁の本体にも、文藝春秋のホームページにも、〈来るべき作家たち〉というシリーズ(叢書?)が、どういう趣旨のものかってのが、説明されていない。とはいえ、木村紅美(くみ)の『風化する女』、赤染晶子の『うつつ・うつら』という過去のラインナップから察するに、文學界新人賞受賞作、受賞作家の受け皿と思しい。(『うつつ・うつら』に併録の「初子さん」は2004年第99回、『風化する女』は2006年第102回のそれぞれ文學界新人賞受賞作)
で、この「さりぎわの歩き方」も、2005年第101回の同賞の受賞作なんだけれど、これがなかなか口当たりが良い。主人公はネット・ニュースのライターで、一緒に暮らしている彼女とのゴールインも近い。しかし、友人の企画した宿泊ときの合コンに参加したことから、不覚にもとんでもない事態に陥ってしまう。
作中に「今どきの青春小説」というフレーズが何度も登場するが、それが本作のテーマともアンチテーゼともつかない展開を見せるあたりが面白い。主人公の職業をはじめとして、今どきのガジェットが次々と出てくるおもちゃ箱的な面白さがあるし、主人公の激情が爆発する場面もあって、青春小説の熱さもさりげなく忍ばせてある。
同時収録の『長い名前』には、うってかわって内向する男女と古めかしい空気をたたえた作品で、表題作とは好対照の面白さがある。この二作だけでは未だ捉えどころのない印象しかないが、引き出しの多さと語り口の軽快さを買って、次回作以降をマークしたおきたい作家だ。

さりぎわの歩き方

さりぎわの歩き方