(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

崖っぷちの佐藤友哉にとって〝1000の小説とバックベアード〟は転換点となるのか?

サブカル方面では一部にアイドル的なもてはやされ方をしている佐藤友哉は、2001年に〝フリッカーズ〟でメフィスト賞受賞という出自もあって、ミステリ・ファンとしてもちょいと気になる存在だ。そのナルシズムと線の細さは、ややもすると読者にそっぽを向かれかねないくらいに女々しいが、独特のリリシズムのようなものがあって、なぜか読者の母性本能を刺激するのだ。
新作の〝1000の小説とバックベアード〟でも、僕は作家になりきれない的な自らの悩める姿を読者に晒すという恥ずかしげもない暴挙に出ている。もしかしたら、セルフパロディにするほどの逞しさを身につけたのか、とも思ったりするが、そこまでの太鼓判を押す自信は、残念ながらない。というのも、すべてのスペクタクルが、例によってラノベ風の軽さにつつまれており、いうなればガラス箱の中の出し物を眺めるようなスケール感の乏しさがあるからだ。小説とは何かというテーマを大上段に構えてみせた心意気は、おおいに買いたいところなのだが。
しかし、そこを出発点としたイマジネーションの膨らみには、ちょっと虚を突かれた思いがする。日本文学の心をもったDVDを手がかりに、失踪した女性を探す作業は、やがて自分(小説家としてのアイデンティティ)探しの物語とシンクロし、やがて想像もつかない場所へと読者を連れていく。この物語性は、買っていいのではないか。
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