(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝SPEEDBOY!〟のパラレルな世界

もしかしたら。いや、もしかしなくても、2004年10月の短篇集〝みんな元気。〟以来2年ぶりの舞城王太郎の新刊である。この〝SPEEDBOY!〟は、群像2006年1月号に掲載された作品に修正、加筆したもののようで、講談社の新叢書「講談社BOX」の第一回配本の中の一冊。内容はさておき、久しぶりというだけで買ってしまう舞城ファンは多いだろう。(情の薄いファンだけれど、わたしもそのひとりだ)
さて、内容だが、〝山ん中の獅見朋成雄〟(2003年9月)と、パラレルワールドの関係にあるような作品で、あの成雄という韋駄天の男が主人公。ただし、この長篇(実は中篇くらいの長さだが)は、7つの章のひとつひとつが、さらにパラレルワールドのようになっており、それぞれの章ごとに登場人物や設定に微妙なズレがある。この作品を「山ん中」のエチュードだという書評を見かけたが、むしろ本作はスピンオフで、いくつもの違った切り口から、成雄という人間の世界観を浮かび上がらせようという思いが、作者にはあるような気がする。
ひとつひとつの章が短いので、面白そうなテーマも煮え切らないきらいがあるが、過剰なロマンチシズムと力強さを感じさせる饒舌な文章はやはり舞城王太郎で、ファンの渇きをしばし癒してくれる効果はある。しかし、待ち遠しいのは、いうまでもなく新刊予告が無期延期になっている奈津川家サーガの第3作や「新潮」に飛び石で連載されている〝ディスコ探偵水曜日〟の単行本化だ。来年こそは、そのどちらかを拝ませてもらいたいものだが、果たして。