(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「月とテロル」G.O.D.system神様プロデュース

参加した世界SF大会の舞台裏で何か揉め事でもあったのか、公演直前に主演級の野口雄介が降板するニュースが伝わってきた神様プロデュース。でも、わたしの中では、前回公演の「TES.-the testament tester」が、今年上半期のベストのひとつとあっては、なんとしても見逃せない公演なのだが。
30歳を過ぎて、フリーターをしながら、小説を書いている男。ネットの文学賞をとったことがあって、本も一冊出しているが、すでに品切れで、ヤフオクででも探さないと手に入らない。今日も編集者にはコテンパンに言われ、田舎からの電話では両親や弟も心配している。そんな彼をそそのかし、ビルを乗っ取るテロを実行させようとする彼のファンがいた。怪しいミリタリーおタクの協力で、杜撰な計画がなぜか成功してしまい。
イントロの人物紹介で、総勢22名の役者が舞台上に並ぶシーンは圧巻。それだけの人数を登場させるだけあって、一旦は風呂敷を広げ、いくつもの物語が並行して語られていく。しかし、それが終盤、主人公の世界へと見事に収束していくあたりは、実に手堅い。
繰り返し観客に示される「人間は所詮、記号でしかない」というキーワード。現実がリアルさを失いつつあるこの時代の空気を背景に、主人公は自らの虚構を現実世界に構築してしまう。描かれるのは、売れない作家のそんな悲劇(喜劇?)だ。
こういう言い方は失礼だが、火事場のバカ力よろしく、劇団の窮地がプラスの力を生み出しているのではないか。配役を入れ替えた時期が遅かったのかもしれない、台詞をかむ役者が多いし、スピード感を出し切れなかったり、物足りない場面も目につく。しかし、全体に荒削りでありながら、語られる物語には観客をねじ伏せるエネルギーのようなものがある。加藤敦、小玉久仁子のホチキス勢をはじめとして、客演陣のサポートも頼もしい。
物語の正体が種明かしされるラストシーンで、冒頭の伏線が鮮やかに浮かび上がる瞬間が見事だ。短いシーンだが、わたしにはこの意表をつくエンディングが非常に印象深いものに感じられた。タロットカードを手に冒頭で主人公を占った鈴木華菜は、一見目立たないが実はこの物語のキーパースンで、その堂々たるラストの決め台詞と立ち姿に、ついつい見とれてしまった。(150分)

■データ
開場前、劇場入り口から行列の出来てた楽日のソワレ/王子小劇場
9・27〜10・1
作・演出/森達也
出演/小松君和、鈴木華菜、神野剛志、高橋沙織、酒巻誉洋(elePHANTMoon)、中島真一(中島部屋)、太田守信(ギリギリエリンギ)、二階堂裕美(元氣塾)、小泉豊(プロ・フィット)、山内翔(箱庭円舞曲)、吉長賢治(Peek-a-Boo)、加藤敦(ホチキス)、村上直子(ホチキス)、小玉久仁子(ホチキス)、江本和広(ホチキス)、片桐はづき、宮沢留衣、コバ・ジュン(反則団)、安達あいら、須貝英、
猪島涼介
演出助手/増山千花 舞台監督/小野哲史・渡辺陽一 音響/井上直裕(atSound) 照明/工藤雅弘(Fantasista?ish.) 美術/袴田長武(ハカマ団) 衣裳/DOCTOR メイク 制作/村上朋広(電動夏子安置システム) 制作/吉野礼(少年社中)