(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「演劇LOVE〜愛の3本立て〜」青年団リンク東京デスロックunlock#3

旧作2、新作1の合計3本で、東京デスロックの過去、現在、未来(?)を一気にみせようという大胆にして、嬉しい公演。初日の作品解説で、客演したハイバイの岩井が、多田淳之介の実験精神を評して「勇敢」といっていたけれど、実はそんな多田の芝居を3本まとめて観ようというわれわれ観客こそ真に勇敢なのではあるまいか、と思ったりもする。
1本目は、デスロック黎明期の作品「社会」。とある会社の休憩室。壁掛けの時計をみると、まさに今昼休みのさ中。コーヒー片手に、部屋を訪れる社員たちの雑談的なやりとりからは、職場の人間関係や個人にまつわり意外な事実などが浮かび上がってくる。新規採用もあれば、会社を去るものもあって、まさに悲喜こもごも。ひとりひとりの人となりも次第に見えてきて。
ま、黎明期といってもたった2年前の作品なので、時間の経過はほとんど感じられない。現代口語演劇と呼ばれるものの典型のような作品で、今のデスロックと較べると、驚くくらいマトモだが、しかし面白い。人生の断面のようなものが、適当に切り取っているようで、実は絶妙。そんな人間模様が見える作品。客演の永井若葉とギリコツカサが、デスロックの空気といい化学反応を起こしている感じ。(60分)
転換期だという「3人いる!」は、3人の登場人物たちすべてが一人二役(といっていいのか)という、実験職の強い作品。アパートの一室で、男2人が鉢合わせ。ふたりとも、自分が部屋の主人であることを疑っていない様子。それでは友人にどっちが本物か確認させようという話になり、近所の友人宅へと向かうが、そこでも同じ現象が起きていた。しかし、もう一人の自分が見えるのは、どうやら本人たちだけのようで、他人の目にはひとりに映っているらしい。そこに、友人の恋人がやってくるが、彼女もまた。
一人が二役以上を演じたり、その逆に二人以上が一役を演じたりと、演劇における自由度を屈折したものの見方で推し進めてみました、という作品。昨年初演の作品だが、わたしは次の「再生」からデスロックを観始めたので、初見。登場人物をABCの3人だとすると、A、A´、B、B´、C、C´の6役が存在するわけで、3人の登場人物が今どの役を演じているのか、見ていて脳の訓練を受けているような面白さがある。
ただ、存在していないにもかかわらず、どこか物語性がチラつく感じが、個人的にはちょっと気になる。それがあるせいで、やや退屈を感じる場面もあるような気がするのだが。初演は、最後に声だけのシーンがあってそうで、それを今回はとっぱらったようだ。(60分)
そして、新作の「LOVE」。これは、もう目の前にある6人の女優の肉体だけで成立しているような作品。誰もいない舞台に、女性たちがひとりずつ登場していく。自然発生的なコミュニケーションをきっかけに、彼女たちの体から喜怒哀楽の感情があふれ出て、それがコミュニティを連想させる集団の行動へと繋がっていく。
6人の役者たちの熱気に圧倒される心地よい60分だ。ダンスを交えた動きの激しさとそれに伴う汗が、役者たちの存在感を際立たせている。後半、象徴としての男がひとり登場するが、女性たちの男への対応が次第に変質していくあたりが微妙に面白い。会場の施設をうまく使った幕切れも、印象的でした。(60分)

■データ
演劇LOVEの思想にシンクロしまくった雨の日のマチソワ3本立て/原宿リトルモア地下
9・30〜10・9
演出/多田淳之介
出演(「社会」)/夏目慎也、佐山和泉、多田淳之介、海津忠、永井若葉(ハイバイ)、ギリコツカサ(野獣会JAPAN)
出演(「3人いる!」)/夏目慎也、佐山和泉、岩井秀人(ハイバイ)
出演(「LOVE」)/佐山和泉、石橋亜希子、高橋智子、坂本絢、宮嶋美子(風琴工房) 、白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)、夏目慎也