(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「PTA」ホチキスVol.21

去年のプレミアム公演(OZオズ@王子小劇場)が、なかなかの出来映えだったホチキスの新作。吉祥寺シアターで9日間の上演期間というのも、劇団として勝負どころだと感じさせる。作・演出の米山は、先のマダマダムーンプロデュース(家政婦はいた@サンモールスタジオ)で素晴らしい脚本を提供していたし、役者の加藤敦と小玉久仁子が神様プロデュースへの客演でいい味を出していたのも、まだ記憶にあたらしいところ。
模試の成績で全国最下位という不名誉な記録を出してしまった安井小学校。今日のPTA会議にも、教育委員会から解体屋と呼ばれるスパイ(Gメン?)が送り込まれるとの事前情報が流れ、戦々恐々とする担当の教師。そんな彼を、長年イエスマンとして教師人生を乗り切ってきた教頭はしきりに宥める。
この日の議題は、子供自転車免許をつくろうというもの。交通事故で亡くなった女性教師の追悼の意味も込めてのことだった。しかし、教頭の思惑をよそに、議論はおかしな方向へ。子供たちにルールを課すことの是非をめぐり、教師や同席していた婦人警官を含めて会議は真っ二つに割れ、紛糾する。
冒頭に書いたような理由から、わたしが見るにホチキスは今まさに上り坂。というわけで、高い期待値という前提での話にはなるが、今ひとつの出来映えに留まってしまったように思う。決してつまらなくはないし、光るシーンはあるものの、全体としてはいささか冗漫。そう、上演時間的には決して長い芝居ではないのに、長過ぎる印象があるのだ。
その原因は、テーマへの絞込みが下手なのか、それとも内容的に欲張り過ぎているのか。模擬試験が不出来だった理由や交通事故の原因など、話を盛り込みすぎて、それがいずれも説得力に欠け、散漫な結果に終わっているように思う。とりわけ、交通事故に関しては、現場再現のシーンなど「十二人の優しい日本人」を連想させるが、あの切れ味には遠く及ばず、中途半端な印象しか残らない。
話の収束の方向としては、やはり死んだ女性教師のエピソードに絞るべきだったのではないか。同僚の教師など周囲の見方と、本人の素顔のブレがシンクロするあたりは、なかなかよく出来ていただけに、それをメインにもってこなかったのはもったいない気がする。
しかし、そんな瑕があっても、現在の風向きは劇団にとって追い風であることは間違いないところだろう。役者陣も揃って元気だし、とりわけ加藤敦の教頭役は、実にいい味を出している。次回作にも期待したいと思う。(125分)※27日まで。

■データ
個人的には齊藤美和子が贔屓だと言いたい初日のマチネ/吉祥寺シアター
1・19〜1・27
作・演出/米山和仁
出演/加藤敦、小玉久仁子、橋本哲臣、中川智咲子、船戸健太郎、山崎雅志、村上直子、齊藤美和子、江本和広、山本洋輔