(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ピンポン、のような〟時間堂

時間堂は1997年、主宰(堂主を名乗っている)の黒澤世莉が立ち上げ。ぽつり、ぽつりと公演を積み重ねてきているようだが、昨年リュカ.との共催だった〝vocalise(ヴォカリーズ)〟が非常に印象的で、そのすぐあとの王子小劇場プロデュース(これも共催)の〝俺の屍を越えていけ〟(渡辺源四郎商店の畑澤聖悟作)も面白かった。
昨年の2作品は、互いに毛色の異なる作品だったが、役者たちの生の魅力を引き出すという意味で共通した演出の持ち味があって、なるほど黒澤世莉は観客と役者の距離感のようなものを取り払うことに長けた人だな、という印象がある。ただし、その点で今回の〝ピンポン、のような〟は前二作に較べて、正直やや物足りなさが残った。
ひなびた温泉宿の一室。物置と卓球室を兼ねた部屋に、和服姿の主人公(境宏子)がふらりとやってきて、寛いでいる。そこに、仕事で訪れた男(中田顕史郎)、若い女性3人のグループ(こいけけいこ、河合咲、清水那保)や、カップル(足立由夏、原田紀行)らが入れかわり立ちかわりやってきて、先の女性はソファで毛布をかぶり、彼らのやりとりを聴くともなく聴くことに。彼女は、芥川賞を受賞したこともある女性作家だが、現在スランプのさ中。想い出のあるこの旅館で新作に取り組もうとしていた。
ご近所に伝わる幽霊話が幾度となく語られ、最初はジェントル・ゴーストストーリーかと思わせる。しかし、やってきた男が編集者であることや、カップルの片方は腐れ縁のように続いている彼女の恋人だということがわかり、次第に登場人物間の機微や人間関係がほのかに浮かび上がってくる。宿の女将(雨宮スウ)が、彼らの間をすいすい泳ぎまわって、物語の進行を円滑にしていく中、主人公が作家としての壁を乗り越え、そして停滞している人生の歩を再び進めるきっかけを掴んでいく。
編まれていく人物間の綾や、ドラマの空気の濃さに不満はない。役者たちもいい。それでいて、物語の生命感みたいなものが明らかに前作、前々作よりも弱い。原因は、ややあけすけ過ぎる人物描写だろうか。舞台と観客席の間に置かれた卓球台も、思ったほど機能していないように思える。一定の水準を越えていることは十分に認めたうえでの、やや欲張りな不満ではあるのだけれど。
ところで中田顕史郎演じる編集者は、〝vocalise〟に登場するのと同じ人物ではないか。だとすれば、役者と演出家を通じて作者の異なる両作品は共通の空気を共有していることになる。これは、ちょっと面白いと思った。(90分)

■データ
ソワレ/王子小劇場
4・26〜4・30
作・演出/黒澤世莉
出演/足立由夏(InnocentSphere)、雨森スウ、河合咲、こいけけいこ(リュカ.)、境宏子(リュカ.)、清水那保(DULL−COLORED POP)、原田紀行(reset-N)、中田顕史郎