(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「僕らの声の届かない場所」空想組曲vol.4

ほぼ1年ぶりとなる空想組曲=ほさかよう。前回(小さなお茶会。@王子小劇場)同様に、多彩な客演を招いての新作である。
飄々としたキャラでどこか浮世離れしたオーナー(中田顕史郎)が経営する小さなアトリエ。伸び盛りの画家たちが集まり、それぞれが熱心に作品に取り組んでいる。そんな中で、仲間たちに溶け込もうとしない若者がひとり(狩野和馬)。黒々として、どこか異様な油絵を描く彼は、どうしても作品を完成させることができない悩みを心の内側に抱えていた。
しかし、そんな彼の苦悩をひとりの少女(牛水里美)が見抜いた。内側から湧き出るようなイメージをカンバスで捉えきれない彼のジレンマに気づいた彼女は、彼の作品を未完成だと指摘し、完成するのを楽しみに待ちたいといった。少女への信頼を募らせる若者だったが、彼女はなぜか若者を急かせる。自分には、時間があまり残されていないのだと言って。
斬新で構築的な舞台美術も前作同様素晴らしい。今回は、カンバスの舞台を一部通路を兼ねたズレた額縁が取り囲む作品世界そのものを表象するかのような作りになっている。
また、嫌われ者の夜虫という寓話というか、絵本の中のお話を並行して、本編とシンクロさせる仕掛けは、夜虫を演じる松崎史也の独特の雰囲気もあって面白い効果を挙げている。ただし、その重なり具合は正直ややビミョーなところもある。また、才能をめぐって持つものと持たざるものの関係を描くくだりは、こちら側に「コンフィダント・絆」の記憶が強く残っているせいもあって、やや損をしている。
狩野和馬と牛水里美は、期待にたがわず非恋愛の男女関係をディープに演じてみせるが、濃い目のストーリーの狭間をあっけらかんと動き回る中田顕史郎の軽妙さが最高。彼のコミカルで饒舌な水先案内が、暗くてヘビィ一辺倒になりかねないテーマから物語をずいぶんと救っていると思った。(120分)

■データ
唯一の所属女優(と思われる)紫村朋子さんが今回もいい味だしてますのマチネ/王子小劇場
7・31〜8・4
作・演出/ほさかよう
出演/狩野和馬(Innocent Sphere)、牛水里美(黒色綺譚カナリア派)、牧島進一(Studio Life)、齋藤陽介(ひょっとこ乱舞)、田口治、松崎史也(Afro13)、藤田美歌子(新宿芸能社)、石澤美和(SQUASH)、紫村朋子、中田顕史郎