(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ドラマ進化論〟北京蝶々第8回公演β(ベータ)版

北京蝶々は早稲田大学劇研の現役アンサンブルで、学生らしい(といったら、今のかれらにはもはや失礼かもしれないが)チャレンジ精神で公演を重ね、確実に力をつけてきている。今回は、本公演に先駆けてまずはβ版を公開し、観客の反応を見ながら軌道修正をして、本公演へ臨もうという試みだ。
近未来のお話。新東京タワーが竣工し、デジタル放送は新タワーへ完全移行することが決まっているが、反対運動も高まってきている。そんな折、TV局からの下請けでドラマを作る制作会社の一室では、ある連続ドラマをめぐって、関係者が頭を抱えていた。視聴者からのアンケートでドラマを作っていくという双方向の試みは、主役すらも入れ替わってしまう事態を招き、制作現場を混乱に陥れてしまっていた。主役の降板にCM仕事との関連で戸惑うTV局、嫉妬がらみで怒る出演者、立ち往生する脚本家、そしてつには監督が過労で倒れる。そして、新タワー反対運動の意外な事実が、八方ふさがりの状況に立たされた制作会社のスタッフを、さらに打ちのめす。
視聴者(観客)参加という手法が、作中と舞台運営の双方でシンクロするアイデアが見事だと思う。物語の作りも精緻で、作中にさりげなく配置された違和感が、最後の種明かしでそれが鮮やかに伏線として浮かび上がる。いくつも感心させられる箇所があった。
作中劇の手法で作中に流れるテレビドラマの映像もそれらしいし、クライマックスのシーンも手がかかっている。現時点で持てる力とアイデアを十分に発揮した感があり、本公演への期待が否応なく高まる。
ただ、欲をいえば、全体にきっかりと作り過ぎで、例えば役者レベルでもう少し遊びがあれば、さらに作品としての膨らみが出るし、観客をもてなすことが出来るように思う。口で言うほど簡単じゃないことは判っているのだが。(60分) ※β版は終了。本公演は5月23〜28日の予定。

■データ
マチネ/早稲田大学演劇研究会アトリエ
4・27〜4・29
作・演出/大塩哲史
出演/赤津光生、帯金ゆかり、鈴木麻美、三浦英幸、森田祐吏、垣内勇輝、田渕彰展、白井妙美、松崎美由希、山田祐輔
照明/伊藤孝(ARTCORE design) 音響/志水れいこ 舞台監督/藤田有紀彦 舞台美術/大塩哲史 宣伝美術/満富優子、江田綾乃 スチール/金丸圭 衣装/鈴木慶太 映像/北京蝶々 協力/高山渓 ウェブサイト/太田家世(自由創作師) 制作/赤津光生、鈴木麻美