(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

ワイルドシングス (1998)

フロリダを舞台にしたミステリは、かなりの確率で面白い。というのは、わたしの中での勝手なジンクスなのだけれど、あながち的外れともいえないのは、チャールズ・ウィルフォードカール・ハイアセンらの饒舌で豊穣な物語を生みだす土地柄のようなものがそこにあるからだろうと思う。ここに紹介する『ワイルドシングス』もまた、南フロリダを舞台にした作品で、ミステリ・ファンの稚気をあざとくくすぐる作品である。
ハイスクールの進路指導の教師をしているサム(マット・ディロン)は、女子生徒のケリー(デニース・リチャーズ)からレイプの告発を受けた。この地方都市を取り仕切るケリーの一家を相手にまわしての訴訟という圧倒的に不利な立場のサムを、小さな法律事務所のウデン(ビル・マーレー)が弁護することになった。しかし、サムにとって致命的ともいえる新証人が現れた。同級生スージー(ネーブ・トーラー)も、かつてサムにレイプされたと警察に申し出たのだ。警官のデュケ(ケヴィン・ベーコン)の執拗な調査もあって、窮地に立たされたサムだったが、ウデンの証人尋問から意外な活路が開かれた。スージーが、自分の告発は嘘で、ケリーとの共謀であったことを法廷で告白したのだ。
と、あらすじはここまでにしておく。なぜなら本作が徹頭徹尾どんでん返しに奉仕した作品であるからだ。登場人物の思惑や計略が錯綜し、この法廷場面あたりから観客は予想だにしなかった意外な事実を次々目の当たりにしていくことになる。その尋常ではないどんでん返しへの拘りについては、末尾のネタばれを参照していただきたい。(ただし取り扱い注意です)
監督のジョン・マクノートンは、実在のサイコキラーをテーマにした『ヘンリー』でスコセッシに認められた人材で、『恋に落ちたら…』や『ボディリップス』でメジャー監督への階段を昇り、本作『ワイルドシングス』に辿りついた。本作のあざといまでのサプライズエンディングの釣瓶打ちに、ひるんだ映画ファンも多かったようだが、エンドロールの最中にまで種明かしのマテリアルを散りばめ、観客を欺くことへのこだわりを見せてくれる。スージー・役のネーヴ・キャンベル(『スクリーム』)とケリー役のデニース・リチャード(『スターシップ・トゥルーパーズ』)の色気むんむんの演技もこの映画の売りのようで、後に未公開のエロチック場面を10分弱追加した〝エロティック・ヴァージョン〟というのがDVDで発売されている。また、ビル・マーレーの場面などは、小技ながらコメディのセンスもさりげなく発揮されており(彼の事務所に貼られた依頼者たちの写真が笑える)、マット・ディロンケヴィン・ベーコンという豪華な配役も本作の存在感をしっかりとしたものにしている。南フロリダの自然を美しく映像に取り込んだカメラワークも特筆に値するもので、とりわけ冒頭のタイトルバックのシーンの美しさには息を呑む。[★★★]
ところで、タイトルの『ワイルドシングス』は、do the wild thing (セックスをする)のスラングからとったのだろうか?wild という単語には、a wild talk (よた話)、It's wild! (うっそー、イカしてる)といった使い方もあるようです。なお、本作には非常に出来の悪い続編が存在するのだが、それについてはまた改めて別に機会に。

ワイルドシングス [DVD]

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(以下ネタばれ)
裁判の逆転判決を除いても、おおよそ5つのどんでん返しが用意されている。ようやるわ。
①実は、教師のサムは女生徒のふたり(ケリーとスージー)と共謀していた。サムとスージーは金目当て、ケリーは、信託扱いにされた財産を自分のものにするためだった。
②サムは共犯者のスージーを消し、警官のデュケは正当防衛でケリーを射殺する。ところが、ケリーの射殺は実はデュケの謀殺で、デュケは最初から教師のサムとグルだった。
③実は、スージーは生きており、サムの共謀していた。そうとは知らないデュケは、ヨット上でふたりに殺される。
④スージーと共謀したつもりのサムだったが、じつは彼女の方が一枚上手で、サムは毒殺される。
⑤(エンドロールの挿入シーンで)スージーはIQ200の持ち主で、計画全体は彼女のものだった。そもそも、弁護士のウデンとも共謀していた。