(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

スイミング・プール (2004)

ロベール・トマの戯曲『8人の女たち』を映画化したことで、ミステリ・ファンならマークしているに違いないフランソワ・オゾンだが、この新作の主人公はなんとミステリ作家だ。売れっ子の女性作家サラが新作を書き下ろすために、愛人である編集者の別荘を訪れるところから物語は始まる。
ミステリ作家のサラ(シャーロット・ランプリング)がやってきたのは、南フランスの田舎町。そこに出版社の経営者ション(チャールズ・ダンス)が所有しているのは、庭にプールがある瀟洒な佇まいの別荘だった。ロンドンではややスランプ気味だったサラだが、気分を一新し、さっそく新作にとりかかる。ところが、翌晩、ジュリーという少女(リュディヴィーヌ・サニエ)がやってきて、ジョンの娘であると名乗った。プールを素裸で泳ぎ、次々違う男性を連れ込むジュリーの気ままな生活ぶりに苛立ち、サラは執筆ペースを乱されるが、いつの間にかジュリーの奔放な男性関係に興味を惹かれ、それに呼応するかのように小説の執筆も捗り始める。ところが、ある朝、プールサイドで血痕を発見したサラは、それが昨晩、ジュリーが連れて来た町のカフェで働く男性のものではないかと疑う。サラに問い詰められたジュリーは殺人を告白をし、サラはジュリーに殺人の隠蔽について協力を申し出る。
ミステリの仕掛けとしては安易なものだが、終盤にたたみかけてくるどんでん返しには眩暈に似た感覚をおぼえた。最初は、よく判らず、狐につままれた感じもしたが、よく考えると悪くないオチという気もしてくる。愛人にも飽きられ、新作の執筆も思うにまかせないミステリ作家を主人公にしている必然性のようなものが、おぼろげながら次第に浮かび上がってくるからだ。
ただ、その手法はあまりスマートともいえず、勘の悪い観客には理解されないかもしれない。この結末を不条理なものと思う向きもあるだろう。そういう意味で、ミステリ的というよりは映画的な作品として評価するのが妥当かも。わたしの中では、日に日に評価が高まっていくような予感がするのだが。
とにかく、シャーロット・ランプリングが60歳目前とは思えない大人の色気があって、またミステリ作家という職業の独特の雰囲気を見事に湛えている。彼女のデビューは確か、リチャード・レスターの『ナック』だった筈で、その後、ヴィスコンティリリアーナ・カヴァーニの作品で活躍し、名をあげた人だが、本作を見ると、女優としていい歳のとりかたをしているとつくづく思う.彼女の存在感で、この作品の完成度はぐっと高まった。[★★★]

スイミング・プール 無修正版 [DVD]

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(以下ネタばれ)
あまりきちんと説明されないので、ちょっと自信のないところもあるが、すべてはサラの妄想であった、というオチが正解だと思う。新作の生みの苦しみ、性的な妄想、愛人へのあてつけ、などが妄想の源だったのではないか。