(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ハッシャ・バイ」虚構の劇団第三回公演

この日、座・高円寺1の観客の平均年齢は、おそらくわたしの歳を上回っていたのではないかと思われる。還暦前後と思しき善男善女に囲まれての小劇場芝居の観劇。なんとも稀有な体験というほかない。

ある日、一人の探偵事務所を訪ねた依頼人は「いつも同じ夢を見る」と語り始める。いつも夢に見るアノ場所は、いったい何処の砂浜なのか。幸福そうな微笑みをたたえる彼女は、いったい誰なのか。夢でみた風景を探す私立探偵と依頼人。真相に近づくにつれ、二人の現実は夢に取り込まれていく…。繰り返されるどんでん返しの先に待つ、衝撃の結末とは。(公式サイトより引用)

シアター・グリーン、そして紀伊國屋ホールと、会場のステップアップは、まるで第三舞台の成長過程を早回しで見せられているような気分にさせられる虚構の劇団だが、今度は往年(?)の代表作のひとつ「ハッシャ・バイ」を取り上げるというのだから、ファンとしてはさすがに心配にならざるをえない。鴻上尚史の目指しているのは、過去の方角ではないか、と。
しかし、なぜ今過去の作品を、というそんな素朴な疑問は、若い役者たちによって再現されていく自分探しと母親殺しの物語を観ているうちに、どうでもよくなってしまう。それくらいに、「ハッシャ・バイ」の刺激に満ちた面白さには圧倒される。改めて実によく出来た戯曲だと感心させられた。
なんでも鴻上尚史自身の演出では、18年ぶりの再演らしいが、過去の1986年のサンシャイン劇場と91年の紀伊國屋ホールでの第三舞台の公演は、わたしも観ている筈で、迷宮を旅するような不思議な物語展開や、ときに観客をわれに帰らせる切り返し、さらには衝撃に満ちたサプライズドエンディングには今回も新鮮な驚きがあったが、それがやがて記憶の中に眠っていた観劇体験にゆっくりとシンクロしていく感動も味わった。
役者たちは、つねに第三舞台の役者たちと較べられる宿命を背負っているが、背伸びをしながらも、この複雑な物語を演じきったことを誇りに思っていいのではないか。(120分)

■データ
久々に第三舞台の公演DVDを観てみたくなったソワレ/座・高円寺
8・7〜8・23
作・演出/鴻上尚史
出演/大久保綾乃、小沢道成、小野川晶、杉浦一輝、高橋奈津季、三上陽永、山崎雄介、渡辺芳博