(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

20年目のアニバーサリー・エディション『AMATEUR ACADEMY』

ぼくの中では、ムーンライダーズというバンドは、いうなれば時代と添い寝してきたアーティストという印象が非常に強い。デビューからそろそろ30年が経とうとしているが、彼らは常にその時代性を感じさせるアーティストとして存在してきた。つまりは流行を先取りする才覚あるバンドというわけなんだが、捉えようによってはみもふたもない言い方になりかねないところもある。例えば、パクりが上手いバンドだ、とかね。
しかし、時代性云々はおいておくとしても、彼らが一定の水準を必ずクリアするようなかたちで、オリジナル・アルバムをリリースしてきたことは間違いのないところだ。若干の欠落はあるのもの、ほとんどリアルタイムで彼らのアルバムを聴き、ライブにも足繁く通ってきたのは、おそらくはわたしが、ポップソングやロックに関してムーンライダーズのセンスをいかに信頼しているかということの証であろう。また音楽における嗜好の方向性が似ていることもいえるかもしれない。

そんな中で、まだまだ彼らと蜜月に近い関係を結んでいた時期の『アマチュア・アカデミー』の20周年記念エディションがこのたびリリースされ、久々にこのアルバムを聴いてみたくなって購入した。そうか、もうあれから20年が経ったのか。なんだか、思い出の小箱を開けるような気分で聴いてみたところ、やはりいい。前作『青空百景』で大きなマイルストンを築いた彼らのポップセンスが、このアルバムではさらに熟成したような形で実を結んでいることを再認識した思いだ。

収録曲は次のとおりである。

1)Y.B.J. (YOUNG BLOOD JACK) 4:11、2)30 (30AGE) 3:49、3)G.o.a.P. (急いでピクニックへ行こう) 3:32、4)BTOF (森へ帰ろう〜絶頂のコツ) 3:10、5)S・E・X(個人調査) 4:59、6)M.I.J. 3:58、7)NO.OH 3:53、8)D/P(ダム/パール) 3:33、9)BLDG (ジャックはビルを見つめて) 3:56、10)B.B.L.B. (ベイビー・ボーイ、レディ・ボーイ) 4:11

(BonusDisc)
1)Star-Struck(Bldg English Ver.) 3:15、2)G.o.a.P.(Live Ver.) 3:44、3)S・E・X(Live Ver.) 6:49、4)NO.OH(Live Ver.) 4:10、5)M.I.J.(Single Ver.) 3:59、6)GYM 3:05、7)Happy Birthday(DEMO Ver.) 3:56

個々の曲のタイトルがアルファベットに省略されていて、当時は妙に新鮮な思いがしたものだが、そのクールな外観とは裏腹で、ひとつひとつの楽曲のクオリティはメロウで、ポップスとしても非常に豊穣な内容が盛り込まれている。ソングライティングは、例によってメンバーそれぞれがバラバラに担当しているが、誰の曲が、ということではなしに、全体のレベルは非常に高い。練りに練られた作品が揃った、という印象が非常に強い。
セクシャルな印象がじわじわ伝わってくる官能的な〝S・E・X(個人調査)〟や、コーラスワークが心に沁みる〝BLDG (ジャックはビルを見つめて)〟、これぞ珠玉のポップソングという〝D/P(ダム/パール)〟などなど。当時、メンバーの口から『洋楽っぽい』という言い方がされていたが、ずらりと並んだ楽曲の洗練ぶりを眺めると、なるほど、それはこのアルバムを語るひとつの切り口だな、と思う。
一方、それらの間からちらりと暗い終末観みたいなものが覗くのも、興味深いところだ。リーダーの鈴木慶一は、映画『ブレードランナー』からの影響と語っているようだが、隙間から透けて見えるペシミスティックな未来感のようなものが、独特のロマンチシズムを生み出している。
確か、この時のレコ発ライブにも足を運んでいる筈で、渋谷公会堂のステージに積み上げられたスクラップの山に驚いた記憶がある。廃墟に模したそのステージで演奏を繰り広げ、最後は自動車をメンバー全員で叩き壊すというパフォーマンスで幕だった。
今回の20周年エディションには、ボーナス・ディスクがついていて、収録曲のオリジナル・バージョンやライブのテイクを聴くことができる。びっくりするようなものはないが、このアルバムの頃のムーンライダーズとその背景を浮かび上がらせる効果もあって、これは嬉しいサービスだと思う。

最後に、自分のためにムーンライダーズのディクコグラフィーを掲げることとする。

1.火の玉ボーイ (1976)
2.ムーンライダーズ (1976)
3.イスタンブール・マンボ (1977)
4.ヌーベル・バーグ (1978)
5.モダーン・ミュージック (1979)
6.カメラ=万年筆 (1980)
7.マニア・マニエラ (1982)
8.青空百景 (1982)
9.アマチュア・アカデミー (1984)
10.アニマル・インデックス (1985)
11.DON'T TRUST OVER THIRTY (1986)
12.最後の晩餐 Christ, Who's gonna die first? (1991)
13.A.O.R. (1992)
14.Beautiful Young Generation HIGH SCHOOL BASEMENT 1 (1995)
15.Le Cafe de la Plage (1995)
16.ムーンライダーズの夜 (1995)
17.Bizarre Music For You (1996)
18.月面讃歌 (1998)
19.dis-covered (1999)
20.Six musicians on their way to the last exit (2000)
21.Dire Morons TRIBUNE (2001)