(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「さよなら また逢う日まで」ブラジル

ブラジルの新作は、ミステリ劇にして、いわゆるケイパーもの。いや実は、いわゆる、というほどこのジャンルに一般性はないかもしれないが、ケイパーものとは強奪、襲撃をテーマとするもので、小説でいえばドナルド・E・ウエストレイクがこれを得意としている。彼のドートマンダー・シリーズ(代表作の「ホットロック」はロバート・レッドフォード主演で映画にもなった)やリチャード・スターク名義の悪党パーカーのシリーズなど、面白い作品がいくつもある。
とはいえ、小説ではないのだから、襲撃の現場はばっさりと割愛。ある犯罪を企む男女らが集まるアジトを舞台に、襲撃前と襲撃後のシーンから構成されている。四年前に仲間とつるんで計画した強盗が失敗し、たった一人服役してきた男が出所になった。男は獄中で知り合った仲間とたてた現金輸送車の襲撃計画を実行に移すべく、当時の仲間をふたたび召集する。四年前の失敗は、仲間のひとりが発射した銃弾が誤って味方に当たってしまったのが原因だった。しかし、運悪く逮捕された彼は口を割らず、ひとりで罪を背負った。
四年の歳月が流れ、変わった者もいれば、変わらなかった者もいる。四年前のわだかまりや、計画のイニシアティブをめぐって不協和音も響くが、割のいい分け前に惹かれて準備は着々と進められていく。そして当日、磐石であるはずの計画がついに実行に移されるが。
なんといっても、襲撃後、犯人たちがあじとに戻ってきてからのどんでん返しのつるべ打ちが見ごたえ十分。手に汗握らせてくれる。まさにミステリ劇の醍醐味ここにありの面白さだが、前半のシーンでひとりひとりの登場人物とその繋がりを丹念に描いた成果だろう。
登場人物たちも、役者たちの個性や達者な演技とあいまって、ひとりひとりのキャラクターがしっかりと立っている。やや弱いかなと最初は思ってしまう谷村実紀が、次第にその存在感を増していくあたりが、とりわけ魅力的。身体的特徴を活かしたこいけけいこの使い方(?)にも拍手だ。(110分)
■データ
観客席にはよその役者さんたちがいっぱいだった楽日ソワレ/こまばアゴラ劇場
5・9〜5・20
作・演出/ブラジリィー・アン・山田
出演/中川智明、西山聡、櫻井智也(MCR)、辰巳智秋、諌山幸治、谷村実紀、川島潤哉コマツ企画)、加藤慎吾(劇団印象)、こいけけいこ(リュカ.)