(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

虚構の劇団 第7回公演「天使は瞳を閉じて」

時代の空気に敏感であるがゆえに、鴻上尚史の芝居は時の流れとともに風化していくのではないかと正直思っていた。しかしそれが間違いだったことを悟ったのが、少し前に虚構の劇団による『ハッシャバイ』を観たときだ。若い役者が演じる準古典を眺めながら、少々の時間の経過などものともしない、戯曲の強さをしみじみ感じた。
さて、今回の「天使は瞳を閉じて」も、同じく第三舞台の有名なレパートリーのひとつ。個人的にも、おそらくもっとも繰り返し観ている鴻上尚史の芝居で、第三舞台の面々の演技が脳裏に強く焼きついてしまっている。なので、場面ごとに小須田、長野、筒井、筧、京といった役者たちの動きや台詞回しが鮮明に浮かんでしまうのは、いたしかたのない所かもしれない。
そんな中で、新鮮なオリジナリティを感じたのはテンコ役の大杉さほりで、あれ、彼女、ここまで上手かったっけ、というちょっと失礼な感心の仕方をしてしまった。アーカイブ等で過去の上演を観ているのかどうかを尋ねてみたい好奇心にかられるが、ほとんど唯一先達の芝居をなぞっていない、元気いっぱいの演技は買いたい。
先の大震災を踏まえ、若干設定に手を加えているが、物語の流れはほとんどそのまま。時代は変わり、天使は瞳を閉じたまま救いの手をさしのべてはくれない、という時代の空気が漂う今も、人の愚かさをめぐる台詞のひとつひとつが実に心にしみる。
会場のつくりにも関係あるかもしれないが、紀伊国屋ホールや今はなきシアターアプルよりも、舞台を含めての劇場空間が狭く感じられ、それがより濃い空気を生み出していたようにも思えた。(120分)

■データ
池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER
8/2〜8/21
作・演出/鴻上尚史
出演/大久保綾乃、大杉さほり、小沢道成、小野川晶、杉浦一輝、高橋奈津季、三上陽永、山崎雄介、渡辺芳博、大高洋夫第三舞台