(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

PARCOプロデュース「クレイジーハニー」

ストーカーの妄想は別として、作家の目に自分たちがどう映っているかなんて考える読者はいないだろう。しかし本作を観ると、なるほど彼らの側から見たわれわれ読者は、得体の知れない怪物のようなものかもしれないなぁ、と思えてくる。
新刊のサイン会を兼ねたトークショーで、客いじりと暴言の限りをつくすふたり組。彼らは、落ち目の携帯小説作家の女とその友人でおねえ系のゲイの男だ。やがてイベントも終わって閑散とした店に、ぽつりぽつりと先ほどの客たちが再び戻ってくる。実は、ここからが今日の本番だった。恐るべき企画が、出版社の男から説明される。
おそらくは、本谷の作品で主人公に共感できたのは、本作が初めてのことだと思う。深読みを承知でいうなら、ヒロインの思いきったキャラクター設定に、書き手の孤独をつきつめるための必然が感じられるし、作家であるがゆえに苛まれるイタイ気持ちがビビッドに伝わってくるのだ。
作者の赤裸々な内面性を突きつけられ、いつもだったらうんざりしてしまう本谷の作品を、芝居としてきちんと賞味できるものにしているのは、長澤まさみの存在だろう。これまでTVや映画で散々見てきたが、これといって印象のない女優だった。しかし、この舞台上をヒロインとして動き回り、まくしたてる彼女は、実に生命感にあふれている。こんなに力のある役者だったとは、正直驚かされました。(140分)
■データ
渋谷PARCO劇場
8・5〜8・25
作・演出/本谷有希子
出演/長澤まさみリリー・フランキー、成河、安藤玉恵、吉本菜穂子、中野麻衣、坂口辰平、太田信吾、札内幸太、池田大、中泰雅、北川麗、鉢嶺杏奈、加藤諒、清水葉月