「怪談牡丹灯篭」シス・カンパニー
怪談としておなじみの牡丹灯篭の物語が、そもそもは中国のもの(明の時代)であることをおさらいしたのは、つい先日の「奇ッ怪」@シアタートラムでのこと。日本でのポピュラリティは、明治に入って三遊亭朝圓の人情噺「怪談牡丹灯籠」と、三世河竹新七による歌舞伎の世話物「怪異談牡丹灯籠」に負うところが大きいようだけれど、今回のテキストは1974年に杉村春子に乞われて大西信行が文学座に書き下ろした戯曲が使われており、狂言回しというか語り手として落語家の圓朝も登場する。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)
浪人の萩原新三郎(瑛太)に恋い焦れた末に命を落とした旗本・飯島平左衛門の娘、お露(柴本幸)。お露の死の際に、念仏三昧の日々を送っていた新三郎のもとに、ある夜。あとを追って死んだはずの下女のお米(梅沢昌代)と共に、お露が姿を現した。「お露が死んだというのは、二人を別れさせる作り話」というお米の言葉を信じた新三郎。その夜から、新三郎のもとには、夜な夜なカランコロンと下駄の音を鳴らしながら、牡丹灯籠を手にした二人が通いつめる。しかし、ふたりの逢瀬をのぞき見た新三郎の下働き・伴蔵(段田安則)の目に映ったものは…。ごくごく普通の生活を営んできた夫婦・伴蔵とお峰(伊藤蘭)を待つ運命は?!(公式サイトより引用。役者名追加)
全体は二部構成になっていて、死んだお露が生前に惚れた新三郎に執着するゴーストストーリーの前半、後半は金に目が眩んで主人の新三郎を売った伴蔵とお峰、お露の実家である飯島家の主人を謀殺したそして源次郎(千葉哲也)とお国(秋山菜津子)の因縁を描く前半の後日談からなっている。不勉強で恥ずかしいが、わたしは後日談の方は初体験で、新三郎の死後もお話が続くことに驚きと楽しみを味わった。
いのうえひでのりの演出は、コクーンの舞台監督に遠慮があるわけじゃないだろうけれど、期待したよりは控えめな印象で、とりわけすでに馴染みのある前半は退屈した。しかし、悪だくみの末に都落ちした二組のカップルの物語に焦点が移る後半は、がぜん面白くなる。主人殺しの罪を背負い、すっかり尾羽打ち枯らしながら、それでも互いの情愛を燃やし続ける源次郎とお国のカップルを演じるふたりの役者が実に艶やかだ。
一方、主人を裏切ったあぶく銭を元手に始めた商売が成功し、裕福な暮らしを楽しむ伴蔵とお峰の方は、達者だし、観客を楽しませてもくれるのだけれども、ベタすぎて長く観ているとやや胃にもたれる。今回のキャストだと、後半にもっと時間をさいてほしいと思うが人気者の瑛太が前半で死んでしまうとあっては、その前半を短く刈り込むわけにもいかないのだろうなぁ。(15分休憩を含む160分)※31日まで
■データ
冒頭の小舟のシーンで舞台の回転具合がちょっとおかしく思えたソワレ/BUNKAMURAシアターコクーン
8・6〜8・31
作/大西信行 演出/いのうえひでのり
出演/段田安則、伊藤蘭、秋山菜津子、千葉哲也、柴本幸、瑛太、梅沢昌代、大河内浩、松澤一之、市川しんぺー(猫のホテル)、西尾まり、保坂エマ(劇団☆新感線)、粕谷吉洋、森本健介