(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「来来来来来」劇団、本谷有希子 第14回公演

パルコ劇場のプロデュース公演だった「幸せ最高ありがとうマジで!」で、めでたく岸田賞を受賞。劇団としては2007年の「偏路」以来となる本谷有希子の新作。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)

山間の小さな集落。蓉子は、この町の麩焼き場で麩を揚げて働く、新婚ほやほやの奥さんである。嫁ぎ先の夏目家には鳥を溺愛するあまり、自作の鳥園を作っては近所の子供から入園料を取る、商魂たくましい義母と、長男の嫁がいた。麩揚げ場には村の女達も働きに来ている。蓉子も馴染みつつあったそんなある日、新婚一ヶ月で夫は突然、失踪してしまう。
山に捜索隊も出たが見つからず、村では義母の面倒をみる嫁を身代わりにして失踪した、と噂が広まる。東京から嫁いできた蓉子に、親切とお節介で「あんたも出て行ったほうがいい」と忠告してくれる者もいたが、蓉子はきっぱり噂を退け、旦那を信じて待っている。
旦那がいなくなってからも、義母は使い勝手のいい蓉子を手放そうとはしない。働き者の蓉子は義母に命じられ、鳥を世話し、食事の支度をし、麩を揚げ続ける。鳥の世話をして旦那を待ち続ける蓉子の夢は、鳥園のつがいの孔雀がいつか羽を広げるところをみることだった。前に一度だけ羽を広げたところを夫と眺めたことがあり、その時が幸せだと感じたのだ。思い出を心の宝物にしながら、彼女は慎ましくせっせと暮らしていた……。(特設サイトのあらすじより引用)

劇団の第9回公演だった「乱暴と待機」以来のお付き合いだが、思い返してみると、本谷有希子の提示する世界にはなぜか違和感がついてまわる。物語を作り過ぎているというか、お話に過剰な部分があって、ややもすると鼻につくのだ。
妥協点は、松永玲子永作博美が、それぞれ主人公の歪な世界観をディープに演じ切った「遭難、」と「幸せ最高ありがとうマジで!」だが、それとてイタい女を描くマゾヒスティックなまでの執着には、正直ついていけない部分もあった。
今回の「来来来来来」も、残念ながら違和感が残る。数奇な運命に立ち向かうヒロイン像は十分に魅力的なのに、彼女の置かれるシチュエーションが、なんとも作り物めいている。いや、舞台とてフィクションなのだから、どんどん作って構わないのだが、現実(というか客席)から距離感がなんとも半端で、嘘くさく、白々しい。
突飛な人物やシチュエーションがうけるのは、時代の空気なのかもしれないが、そこまで近視眼的にならずとも、という気がする。小説と戯曲というふたつの表現手段を自在に使い分ける作者だが、もしかしたら本作は小説の手法で書かれた戯曲なのかも、という思いがふと頭を過ぎった。(105分)※東京、新潟、大阪公演は終了。北九州公演は8月25日

■データ
補助席まで出て満員御礼の平日マチネ/下北沢本多劇場
7・31〜8・16(東京公演)
作・演出/本谷有希子
出演/りょう、佐津川愛美松永玲子NYLON100℃)、羽鳥名美子(毛皮族)、吉本菜穂子、木野花