(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「桜姫−現代劇」Bunkamura20周年記念企画

鶴屋南北の「桜姫」の新旧2つのバージョン(翻案の現代劇とオリジナルの歌舞伎)を、二ヶ月連続で上演するコクーン歌舞伎15年目(10回目)の特別企画。まずは、イギリス留学中の長塚圭史による古典の大胆な換骨奪胎版から。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)
南北の原典をなぞっているとは識者の評だが、悲しいかな、わたしは歌舞伎の「桜姫」を観たことがないので、予備知識ゼロ。そのせいもあってか、南米に舞台を移し、ふたりの墓守(大竹しのぶ笹野高史)の導きで始まる物語は、前半からラテンアメリカの文学の世界に突入していて、早くもおいてけぼり感を味合わされる。
しかし、混沌とした物語や人物関係にやっとのことで馴染み始める休憩をはさんだ後半は、判らないなりにもどんどん引き込まれてしまう。大きな十字架を背負う正体不明の神父セルゲイ=清玄(白井晃)、刹那主義的な悪漢のゴンザレス=権助(中村勘三郎)、そしてイノセントな悪女マリア=桜姫大竹しのぶ)に、ココ(古田新太)とイヴァ(秋山菜津子)のカップルが絡んで、幻想とピカレスクが入り混じる混沌たる一大絵巻が繰り広げられる。(=は原典での役名)
歌舞伎の古典を文学のマジックリアリズムの世界に移し変えるというアイデアは実に魅力的。ただし、時間や場所など比較的トリッキーに仕掛けられる演劇においても、それは容易ではないようで、本作も前半はやはり無理(というか無茶)が目立っているように思えた。
それでも後半に至って、ぐいぐい観客を引き込んでいく力が強まっていく展開は素晴らしく、前半の退屈を我慢して観通した甲斐は十分にあった。後半は印象的なシーンも多いが、肥え太ったココが椅子に座り、妻のイヴァとやりとりを交わすふたりの日常を切り取った場面が最高にいい。
時間と財布が許せば、とりわけ手強かった前半をもう一度観直したいと思っているのだが、さて。(休憩15分を含む175分)※現代劇バーションは30日まで

■データ
やはり秋山さんは小泉今日子そっくりだよなぁと改めて思うソワレ/渋谷Bunkamura シアターコクーン
6・7〜6・30※現代劇バージョン
原作/四世鶴屋南北 脚本/長塚圭史 演出/串田和美
出演/秋山菜津子大竹しのぶ笹野高史白井晃中村勘三郎古田新太、井之上隆志、内田紳一郎、片岡正二郎、小西康久、斉藤悠、佐藤誓、豊永伸一郎、三松明人