(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「空耳タワー」クロムモリブデン

「静かな演劇」を標榜すると予告されたクロムの新作。タイトルから想像されるように、2012年に控える地上波デジタル放送への移行や、新東京タワー建設などの時代の空気を織り込みながら。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)

ふられた腹いせに相手を刺す少年。しかし死ななかった少女。逆に命の恩人と間違われてしまう少年。では刺した犯人は誰だ!一人の容疑者が意味なく浮かび上がる。しかし容疑者にはアリバイがあった。「犯行時間、私は「お芝居」を観ていました」。しかし内容をうまく説明できない容疑者。かくして「お芝居」の中身を確かめる捜査が始まる。(公式サイトより引用。※改行等修正)

「静かな」ではなく、どちらかといえば「おとなしい」という印象が残った新作。狐につままれたような結末を見せられることもある彼らの作品にしては、いつになく着地点の冒険心が希薄だったように思え、物足りなかった。
たまたま同じ回を観た友人とあとで話していて、早い暗転で見せていくクライマックスが、0か1のデジタル風だったと教えられ、なるほどと感心はしたが(それまでは不覚にも気づかなかった)。しかし、それでも、ちょっとおざなりな結びという感は否めない。いや、それだけ、今の彼らへの期待値が高いということなのだが。
とはいえ、母親として実にいい表情を浮かべるテルコ役の奥田ワレタや「ロッキーホラーショー」のティム・カリーそっくりで暴走してくれる演劇詐欺師エトウ役の板倉チヒロをたっぷりと観られただけで、もとは取れた気がするから、困ったものだ。「猿の惑星は地球」で、なんじゃこりゃ、と困惑しまくったわたしも、今ではすっかりディープなクロムのファンってことなのか。(85分)※大阪公演は終了。東京は21日まで

■データ
劇場入り口あたりの整理をもうちょっとしっかりやってほしかった初日ソワレ/赤坂RED/THEATER
6・16〜6・21
作・演出/青木秀樹
出演/森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、奥田ワレタ、木村美月、久保貫太郎、渡邉とかげ、幸田尚子、金田淳