(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「うそつき」ルスバンズ#1

お出かけも好きだったけど、ひとりで遊べるお留守番も嫌いじゃなかった子ども時代のわたし。なので、このネーミングにはいたく共感します、ルスバンズ。小回り重視なのか、ひょっとこ乱舞主宰の広田が小所帯で立ち上げた新ユニットの旗揚げ公演。なんか楽しそうなことをやってくれそうな気配があって。
舞台は、架空のどこか外国と思しき。隣国との紛争が絶えないのか、今もまたひたひたと戦争の足音が迫ってきている。ギーコ(根岸絵美)とスランプ(金沢涼恵)という若い女性ふたりと、隠遁生活よろしくのほほんと暮らしている科学者のナイル(広田淳一)。どうやら過去に、戦闘用のサイボーグというどえらい発明をした人物らしい。
そこに訪ねてきた板垣という男(倉田大輔)は、ギーコにお金の貸しがあるという。しかし、ギーコは男の顔に見覚えがない。やがて、ふたりのただならない過去の関係が少しづつ浮かび上がってくるのだが、彼の登場に平穏を破られたナイルは、嫉妬もあるのか、板垣のことが気にいらない。暴力はよくないし、そもそも喧嘩はからきし弱いナイルをスランプはしきりに宥めるが。
どことなく翻訳劇の肌合い。シチュエーションコメディを思わせる遊び心としゃれっ気もある。個人的に、好きなタイプの芝居だ。

本物のうそつきは、なにせうそつきなのだから「うそつき!」なんて言われたってビクともしない。だから「うそつき!」なんてことを人が口にするのは相手が本当はうそつきじゃないってことを知っている時だけだ。あとは、えーと、口癖とか?(公式サイトより)

テーマは「嘘」だが、大上段に構えてそれを論じるのではなく、冷凍保存してあった人間関係が自然解凍されていくような穏やかな展開から滋味がしみだしてくるような、とでもいったらいいだろうか。観る者に、板垣とギーコをめぐるミステリアスな過去を、あれこれ妄想させる面白さもある。
役者も粒揃いで、久し振りに見る倉田大輔の喋るたびに謎が深まっていく饒舌な物言いが、物語のキモにもなっている。ちょっとタカビーなギーコと飄々としたスランプ役の対照的なふたりの女優もいい。もちろん、狂言回しのナイルを演じる広田もさすがに手堅い。
見事なのは幕切れの一瞬で、なるほどそうだったのか!と思わず膝を打つサプライズの快感がある。クロムから金沢涼恵を客演で呼んだ理由が一瞬で腑に落ちましたよ。(90分)

■データ
舞台からはける役者が風とともに次々と脇を駆け抜けていく通路側席のマチネ/王子小劇場
4・8〜4・13
作・演出/広田淳一
出演/根岸絵美、倉田大輔(国民デバリ)、金沢涼恵(クロムモリブデン)、広田淳一