(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「キサラギ」ニッポン放送開局55周年記念公演

小栗旬の出演した映画の舞台化という誤った情報まで出回っているこの作品。そもそもは舞台劇で初演は2003年12月、48BLUESという小劇場系の劇団が中野のMOMOで上演したものらしい。(わたしも未見。ってか、まったく知らなかった)オリジナルの脚本は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の古沢良太で、2007年の映画化にあたっても脚本を担当している。今回は、その古沢の本を原作脚本として「緊急結婚特番」の三枝玄樹が再構成したものを板垣恭一が演出している。

D級アイドル如月ミキの謎の死から一年―。彼女をこよなく愛する5人の男達はその一周忌に、とある建物の一室に集まった。インターネットのファンサイトの中だけでやり取りしている彼らが、実際に顔を合わせるのは今日が初めて。思い出の品を持ち寄り楽しくひと時を過ごすはずだったが。―「彼女は殺されたんだ・・・」誰かが言い出したその言葉をキッカケに、展開は目まぐるしく変わっていく。お互いに疑いの目を向けながらも、アイドル★如月ミキを想う気持ちは皆同じ!!そんな5人の5つのストーリーが重なり合った時、思いもかけない一つの結論に辿り着く―。(公式サイトより引用)

イデアの面白さにもかかわらず、映画版が案外と不発だったのは、やはり観客との距離の問題だったに違いない。舞台と映画では、やはり距離感がまったく違う。舞台に較べれば、スクリーンと座席との隔たりは、冷めたものと言わざるをえないだろう。(ちなみに、読者とだと距離がさらに遠のく小説化はもっと向いていないと思う)
キサラギ」で繰り広げられるロジックの遊びは、着想こそ気が利いているが、推理のロジックはやはり荒い。そのアバタの部分を、エクボに見せてしまう親密な距離感というマジックが舞台にはある。前半は、スカスカの空間を空しく役者たちが走り回っているようにしか見えなかった今回の舞台だが、登場人物たちの身元が明らかになり、アイドルの死の真相が二転三転する終盤になって、にわかに熱気をはらんでくるのは、そういう理由だろう。次の機会には、ぜひとももっと小さな空間で観てみたいものだと思う。
映画化にあたって付けられた余計なエンディングは、続編を構想する古沢良太のアイデアだったようで、トンチンカンな蛇足で本編をも台無しにしていたが、今回の上演にあたっては、勿論カットされている。(120分)※4月19日まで

■データ
女性ばかりの劇場内がさすがに居心地悪かったソワレ/世田谷パブリックシアター
4・9〜4・19
原作脚本/古沢良太 舞台脚本/三枝玄樹
演出/板垣恭一
出演/松岡充今井ゆうぞう佐藤智仁中山祐一朗阿佐ヶ谷スパイダース)、今村ねずみ