(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「さとがえり」KAKUTAお蔵だし公演

なんでも2001年、それまでの座付き作家が劇団を離れ、苦肉の策として桑原が書き下ろした処女長編戯曲だそう。初演はアゴラ劇場の2日間で、そのときのタイトルは「とまと2001」。ご本人は荒削りと自嘲気味に言うけれど、処女作にしてこの出来映えというのは、ちょっとすごいと思う。

父が死んで母は若返った。今では僕の年も通り越し、明るい肌をした若い娘…。それが、母だった。(劇団特設サイトより)

映画の「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」みたいな母親の若返りの理由は最後まで明らかにされないが、その異変をめぐる家族の慌てるさまを描き、そこから登場人物たちの人間性や心のありようを濃やかに映し出していく。垣間見える登場人物たちを繋ぐ家族の絆も、押し付けがましいところがなく、実に達者。これが若書きとは、まさに末恐ろしい資質だが、さりげなく挟み込まれる時間を遡るシーンが、現在と過去の隔たりを改めて観客に意識させる大きな効果をあげている。
役者ではなんといっても大枝佳織の母親役が最高で、持って生まれた無邪気さと、突如おかれた境遇からくる微妙なアンバランスな感覚を絶妙に演じている。正直、これまでやや影の薄い女優さんだと思っていたことを(失礼)、大いに反省。
たまたま同じ民宿に居合わせた大学のオカルト研究会の面々も、コメディリリーフ的にいい味を出していて、物語の中に違和感なく収まっている。異儀田夏葉の賑々しい魅力もほぼ全開。もちろん、桑原裕子の生々しい存在感、舘智子の穏やかな佇まいなどと、いいバランスを保っている。本作がスズナリへの初進出だそうだが、単なる原点回帰に留まらない完成度の高さが実に頼もしい。(90分)

■データ
春爛漫の下北沢を劇場までの往復したソワレ/下北沢ザ・スズナリ
4・4日〜4・12
作・演出/桑原裕子
出演/桑原裕子、大枝佳織、佐藤滋、松田昌樹、横山真二、舘智子(タテヨコ企画)、諫山幸治(ブラジル)、はらださほ、土井きよ美、異儀田夏葉(ヨシロォの夏は夢叶え冒険団)、ヨウラマキ