(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「エスカルゴ」こゆび侍第7回公演

本公演を拝見するのは初めて。昨年ルデコでの企画公演を観ているが、オムニバス構成の3本目が、とりわけ彼らの本質に近いのではという気がしていた。(直感でしかないが)すなわちそれは、純文学と通俗文学のやじろべえのような作風なのだが。

男は十数年前に文芸界を風靡した詩人であるが、加齢に伴い才能は枯渇し、落ちぶれていた。ある日編集者から最後通達を受け、ひどく疲れて家族の待つ自宅へ帰り久しぶりに筆を進めるが「妻」という字が「毒」に見えてしまう。―食用のエスカルゴは、体の中の毒や不純物を抜くために何日もキレイな水を飲まされる―体の中の妻<毒>を抜き、自らの才能を蘇らせるため、何日も何日もうつくしい女を呑み込み続けそしてそのたび男は、一心不乱に排泄をしていくがどうにも妻は出て行かず、やがて男は・・・。(公演特設サイトに掲載されたあらすじ)

舞台上に高いやぐらを組み、その頂上にバスタブを据えたという舞台装置は見事だが、高いところでの芝居の場面も多く、そこでの動きはややもすると観客に不安感を与える。物語は、独善ゆえに落ち目へと向う作家の人生を中心に、独善が独善を招くかの如く、それぞれの思惑で生きていく周囲の人々の身勝手をも描いていく。
その中にあって、主人公にまつわるふたりの美女を浅野千鶴と佐藤みゆきが印象的に演じている。彼の目に映る彼女らの聖と毒が逆転するラストは、クライマックスとして無難な着地点だと思うが、もうちょっと破天荒な幕切れがあってもいいように思った。多くの観客にとってお目当てであろう佐藤みゆきが、最後の最後で大胆に踏み出す芝居を見せてくれたのも頼もしい。(110分)

■データ
なぜか男優陣にやけに似た顔が多く思えたマチネ/王子小劇場
3・25〜3・29
作・演出/成島秀和
出演/廣瀬友美、佐藤みゆき、川連太陽、加藤律、福島崇之、浅野千鶴(味わい堂々)、藤尾姦太郎(犬と串)、浅見臣樹、井黒英明、浜松ユタカ(動物電気)、和田菜美子