(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「drill」劇団山の手事情社

彼らにとって自家薬籠中の古典から離れ、ちょっとびっくりの山の手事情社の新作。しかし、今回の現代劇仕様は、実に新鮮。文学的な評価が定まっている過去の作品ばかりでなく、こういう公演も、時おり差し挟んでくださいよ、安田さん、とつい言いたくなる。

漢字ドリル、計算ドリル...世の中にはさまざまなドリルがある。ボクは演技のドリルに取り組む。いろいろな方法で。ボクにできる方法で。そしていつの日か、しなやかな刃先を身につけて、世界に風穴を開けるドリルになるんだ。ボクの部屋に出入りするあれこれ。仕事なかま、元カノ、大家さん...隣の中華屋の喧騒、バイクの匂い...請求書、チラシ、電波...追憶の宇宙人、妄想の虫...それらは語りかけ、ボクのドリルになる。それらに語りかけ、ボクはドリルになる。(劇団サイトより)

基本的には、役者たちのエチュードの産物とおぼしき無数の断片から成り立っている。エピソードの数々が、無秩序に羅列されていくが、そのひとつひとつの意味のない(というかさほど意味は重要でない)面白さに舌を巻く。秘密、妄想、わがまま等など、すべてを受け容れる場所(部屋)を訪れる登場人物たちは、それぞれにめまぐるしく自分の物語を繰り広げていくのだ。
携帯電話の電源を切るようにという開演前のお願いがスライドするかのようにスムースに物語へと入っていく冒頭から、取り散らかしたエピソードを俄に収束させるかの如くその部屋の来歴を明らかにする幕切れ間近に至るまで、印象深いくだりのてんこ盛りなのだが、自分的には次の3つがベスト3かなぁ。

  1. 一人暮らしと勘違いしている来訪者(久保村牧子)
  2. 身障者と介助者(野々下孝・三井穂高
  3. ボクに聞こえてくる会話〜もてるオレ(浦弘毅・越谷真美)

他にも忘れ難い印象的なシーンが多数あり。山の手メソッドに起因するに違いない舞台上をさりげなく支配している引き締まった空気も、終始心地よい。(85分)

■データ
午後からやけに風が冷たくなったマチネ。上演台本、もちろん買いました/下北沢小劇場楽園
3・18〜3・22
構成・演出/安田雅弘
出演/斉木和洋、野々下孝、久保村牧子、越谷真美、三井穂高、小栗永里子、櫻井千恵、谷口葉子、安部みはる、浦浜亜由子、下野雅史、山本芳郎、浦弘毅、川村岳、岩淵吉能