(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「俺の宇宙船、」五反田団

作者の前田司郎が半生を振り返って、自分がヒーローだった幼稚園児の時代の話を書きたい、といっていた五反田団の新作。執筆過程でちょっとした(?)軌道修正はあったみたいだが、出来上がったのは大人の世界と子どもの世界が奇妙に重なり合う印象的な作品で。
仲よしの若い女子三人組。しかし、そのうちのひとり、マントと頭巾の似合う君枝(川隅奈保子)は、最近配偶者とうまくいっていない様子。探偵事務所のようなものをやっている君枝のもとに、ひとりの若い女性(菊池明香)が奇妙な相談に現われる。少年愛ひとすじだという彼女が言うには、最近子どもたちをすっかり街で見かけなくなってしまった。誰かが連れ去っているに違いない、という。
善良な宇宙人の仕業を疑う君枝は、少年の心を持つ助手(大山雄史)に命じ、鳩を捕まえながら暮らしている少年探偵団を名乗る3人のホームレスたち(折原アキラ、三浦俊輔、立蔵葉子)を使って調査を開始する。一方〈居酒屋かあさん〉が怪しいとにらんだ君枝は、経営者の混血ロシア人(奥田洋平)のもとに捨て身で乗り込む。しかし、たまたま探偵団のかつての仲間(望月志津子)と鉢合わせというハプニングに見舞われたものの、調査の方は空振り。今度は、善良な宇宙人は自分の夫(前田司郎)だと疑い、助手や少年探偵団を率い、彼に力づくで白状させようとするが。
抽象的な展開に終始した前作から一転しての本作。といっても、途中までは、なかなか話の本筋が見えてこない。子どもの世界が大人の世界にシンクロしてきたような少年探偵団が活躍する物語世界は、胡散臭さとノスタルジーがいい感じで交じり合って、それだけで心地よいのだが、お話はさっぱり判らない。しかし、一気に虚構から立ちかえるかのように観客の心に現実を呼び戻すラストには、不意打ちを食らうような驚きと快感がある。そうか、子どもの世界は君枝の心の避難場所だったのか、と閃く一瞬は、夫の心優しい心根も同時に伝わってきて、胸の中に暖かいものが広がっていく。
星のホールの中途半端な広さは、小劇場系のひとつの関門だが、客席の後方を封じ、舞台の奥行きを遠近感を強調したような舞台装置にしつらえているのは、いつになくお洒落な雰囲気もあって悪くないと思う。ただ、舞台後方のスロープで交わされる会話が聞き取り難く、イライラさせられた場面があった。残念。(105分)


■データ
一足お先に春が来た日(本当に昼間は暖かでした)のマチネ/三鷹市芸術文化センター星のホール
2・6〜2・15
作・演出/前田司郎
出演/大山雄史、奥田洋平(青年団)、折原アキラ、川隅奈保子(青年団)、菊地明香、後藤飛鳥、齊藤庸介(東京ELECTROCK STAIRS)、立蔵葉子(青年団)、中川幸子、西田麻耶、三浦俊輔、望月志津子、前田司郎