(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「クロウズ」スロウライダー 12th act

8年というキャリアにあっさりとピリオドを打つ最終公演。これまた閉館間近の新宿シアタートップスにて、ゾンビものをウォーホルばりのキャンプユーモアに乗せた最後の作品。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)
近未来の日本。体が腐敗していく病が流行し、ゾンビと化した感染者たちが国中に蔓延した。一時は国が滅ぶかという危機を迎えるが、防腐剤の生産を禁止するという国の対応策が功を奏し、ゾンビたちは腐敗、消滅していき、事態は沈静化に向ったのだった。しかし、本土から離れたこの小島では、いまだ病が猛威をふるっていた。
島の住民から救援の要請を受けた厚生労働省の役人ふたりが、護衛役のハンターを伴い島にやってくる。しかし、役人の一方は島へ上陸早々に、凶暴化したゾンビに噛まれ感染。残りの面々は、どうやらウロコと呼ばれる謎めいた女がゾンビたちに防腐剤を与えているらしいという情報に基づき、彼女を捕らえる。それが功を奏し、島のゾンビたちは日に日に弱っていくが。
ありきたりになりがちなリビングデッドのネタを、一歩踏み込んでみせている。ソンビを疫病として捉えるあたりはまだ序の口で、そこに防疫をつかさどる国が絡んだり、偏見から生まれる差別意識がのぞいたり、ゾンビを殺すのもの国の許可制、さらには価値観の逆転(理性を残したソンビの方が人間らしく、一方闇雲にゾンビを恐れる人間の方が人間以下)まである。
さらには、ソンビも人間と言っておきながら、感染=死という矛盾を孕んだ現実と背中合わせの状況も、緊張感があって悪くない。しかし、そこまできっちりと設定しておきながら、息切れしてしまったのだろうか、物語は生気がない。いや、ゾンビの物語だからそれでいいのだという冗談はさておき、基本的には一部の凶暴化したものを除いて、ソンビは理性的な存在だとするアイデアが、ちっとも活かされていない。ウロコという思わせぶりでミステリアスな存在も見掛け倒し。物語は、B級映画を地で行く展開に終始し、成り行きまかせとしか思えぬまま幕となってしまう。
ゾンビのリーダー格である池田ヒロユキ演じる知的なゾンビのキャラクターがなんとも面白く、彼から派生する物語をもう少しじっくりと醸成できなかったのかと惜しまれる。終盤になって浮上するゾンビたちのアートという面白そうなネタも十分に咀嚼されたものとはいえず、エンディングのために取ってつけたつけたようになっているのも、やはりもったいない。
しかし、それもタイムオーバー。個人的には、試行錯誤そして成功と失敗を繰り返したながらも面白い領域(演劇におけるモダンホラー)を開拓したスロウライダーのもう少し先が観たかったと思う。(115分)※15日まで。

■データ
CROWS = クロウズ = CLOSE ? 結構空席が目立った休日マチネ/新宿THEATER/TOPS
2・7〜2・15
作・演出/山中隆次郎
出演/大村彩子、中川智明、岡村泰子(きこり文庫)、池田ヒロユキ(リュカ.)、星耕介、シトミマモル、高見靖二(チャリT企画)、田中慎一郎、吹田早哉佳、中川鳶、徳橋みのり(ろりえ)、奈実