(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「その夜明け、嘘。」

NHK大河ドラマの「篤姫」と、公開間近のクドカンの映画「少年メリケンサック」の谷間で、宮粼あおい人気も最高潮。そんなさ中、熾烈なチケット争奪戦には敗れたものの、知人の好意で奇跡的にチケットが手に入って。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)
お話は、ヒット作を生んで、とんとん拍子に売れっ子になったマンガ家が主人公(宮粼あおい)。しかし、困ったことに、次回作のアイデアが浮かばない彼女は、アシスタント(吉本菜穂子)を強引に巻き込み、路上にとめてあった誰のものかわからない自転車にまたがる。かくして、担当編集者(六角精二)の追跡を尻目に、女ふたりで環七を行く奇妙な深夜の逃避行が始まる。
ちらしを見て、自転車が宙を飛んだ3年前の駅前劇場の舞台(ピチチ5の「おさびしもの」)を思い出してしまったピチチ5/福原充則ファンのわたし。円形劇場という小さな舞台ながら、メジャーの宮粼あおいの舞台で、どこまで本来の破天荒さ、過激さを発揮してくれるか興味津々だったわけだけれども、いやぁ、やってくれますね、今回も。出だしこそ、少女マンガ家をめぐるよくある平凡なお話だけど、やがてそこからいくつものお話が枝分かれしながら、絡み合っていく。そこには、福原印ともいうべきスペクタクルも用意されている。
繰り広げられていくのは、主人公とアシのふたりがたまたま入ったファミレスの店長とアルバイトの女の子の物語、中年編集者の私生活の内側、苦し紛れに主人公の脳内に浮かぶシドとナンシーの恋の顛末(わたしはこれに思わずぐっと来ました)、といった数々の人生模様。いくつもの役柄をたった3人で演じていくのだけれど、シーンからシーンへの唐突なスライドが、ことのほかいい緊張感を生んでいて心地よい。
濃ゆいふたりの役者に挟まれて、人気者の宮粼あおいも好演を見せ、若手マンガ家の気持ちを軽快に演じてみせる。役柄がくるくるとめまぐるしく替わっていく福原作品だが、それにきっちり対応する達者さが見事だった。(115分)※東京公演は22日まで。その後、横浜公演もあり。

■データ
宮粼あおいってホントウに小顔なのねと感心した休日ソワレ/青山円形劇場
2・7〜2・22(東京公演)
脚本・演出/福原充則(ピチチ5)
出演者/宮粼あおい、吉本菜穂子、六角精児