(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「邪沈(よこちん)」乞局第15回公演

変なタイトルもここに極まった感のある乞局の新作。でも、今回はさすがに、その演目を人の面前で口にするのもちょっと憚られる気が。
辺境の田舎町の物語。そこでは死者を田畑に還すという古い風習があって、遺体を潰すという特殊な死体処理を請け負う商売があった。仔沼組は、葬祭店の地下室を間借りするような形でこの仕事を営んでいたが、世の移り変わりとともにこの仕事が違法となり、廃業の憂き目にあってしまう。しかし、一部の従業員は、こっそりとその作業を請け負っている気配もあって。
その仔沼組を率いる鳶雄(井上裕朗)は、ある晩、妻の阿麒子(中島佳子)を殺してしまった。夫婦が育てている生まれて間もない赤ん坊は、妻の浮気相手である葬祭店の主人碑原(飯田一期)の子だった。押しかけてきた碑原の妻目璃子(山崎ルキノ)の剣幕に気おされ、いったんは子どもの養育を承諾したものの、結局は妻を許すことができなかったのだ。妻の姿が見えなくなったことで、やがて鳶雄は駐在(下西啓正)や捜査を手伝う青年団員(こいけけいこ)の執拗な訪問を受けるが。
個性派女優陣の活躍が目立つ中で、とりわけチェルフィッチュからの山崎ルキノが素晴らしいと思う。彼女が演じる嫉妬と打算に満ちた攻撃性は、物語の起爆剤として見事に機能している。美神の如き堂々たる佇まいで胸を張りながら、こっそりと隣家の台所で鍋の中に唾を吐くシーンの隠微な歪さは、本作の陰のハイライトだ。
また、無理目の設定や全体を覆う閉塞感といった負の要素は、乞局にとってひとつの持ち味だが、今回いつになく抜けが良く感じたのは、脚本に余裕があるからだろうか。風通しのよさは、テンポのいい物語の運びにも繋がっている。回転舞台をふたつ同時に高速で回してみせる、ちょっと無茶とも思える(しかし、面白い)クライマックスは、物語の顛末を早回しで見せる技も織り込まれていて、感心させられた。(100分)

■データ
岩本さんのカラフルで素敵衣装についつい目を奪われたソワレ/笹塚ファクトリー
11・6〜11・10
作・演出/下西啓正
出演/岩本えり、下西啓正、墨井鯨子、西尾佳織、三橋良平、飯田一期、石田潤一郎、井上裕朗、折原アキラ、佐野陽一(サスペンデッズ)、雨森スウ、こいけけいこ(リュカ.)、中島佳子(無機王)、山崎ルキノ(チェルフィッチュ)