(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「プラスチックレモン」ひょっとこ乱舞第20回公演

わたしの頭の中では、伊東沙保というキーワードとともにインプットされているひょっとこ乱舞。ほぼ2年ぶりに足を運ぶ今回は、ふたりの客演(コロと佐藤みゆき)にも、ちょっと背中を押された感じで。気がついてみたら、おお、吉祥寺シアター進出ですか。
世界のあちこちで頻発する人間の消失事件。人が消え、しばらくするとまた姿を現す。どうやらその間、異次元に行っているらしい。一度が二度、二度が三度と、同じ人間ばかりがその現象に見舞われる。店員が全員小柄というドーナツショップで働く羽化も、そんなひとりで、彼女の場合は引っ越しのさ中にこの現象に襲われ、引っ越し屋を巻き込んでしまったこともあった。
やがてその怪現象を解明し、防止するために科学者たちが立ち上がり、消えた経験のある者たちが被験者として集められる。消失現象はブレーントリップと呼ばれるが、原因は謎。異次元とこの世界とでは時間の進行も異なり、向こうに行っている時間も、回を重ねるごとに長くなっていくらしい。研究の甲斐なく、現象を防ぐ術も見つからないまま、次にトリップすると戻れるのは1万年後になる、そう宣告を受けた被験者たちは。
謎にみちた現象をめぐる壮大なスケールと、そこに流れる悠久の時間のイメージが圧倒的ですね。広げた風呂敷の大きさは半端じゃないけれども、10000年という時の流れの重さを否応なく考えさせるという意味で決して過大とはいえない。
一方、それに翻弄される個人の描き方も、胸に迫るものがあった。超常現象を前にして、家族や恋人、暮らしなれた日常に永遠の別れを決意しなければならない人間のひとりひとりは、実に儚い存在でしかない。しかし、ややもすると押しつぶされそうになる来るべき孤独感との折り合いをつけながら、自然体で(そしておそらくは勇気をもって)それに処していく人々の姿は、感動的ですらある。
すごいところに到達しましたね、ひょっとこ乱舞。中心的な役割を果たす中村早香と笠井里美に、客演のふたりを加えた女優陣の頑張りがとりわけ光ってました。高さと奥行きのある空間を最大に活かした舞台美術も含めて、物語と役者の力を、最大限に活かした舞台だったと思う。(130分)

■データ
カワムラアツノリ(初期型)のアフタートークはちょっと目を覆いたかったソワレ/吉祥寺シアター
10・31〜11・5
作・演出/広田淳一
出演/チョウソンハ、橋本仁、松下仁、齋藤陽介、青木宏幸、平舘宏大、広田淳一、、草野たかこ、根岸絵美、舞香、コロ(柿喰う客) 佐藤みゆき(こゆび侍)