(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「紅き野良犬」JACROW11

JACROWは、前作の「斑点シャドウ」が初見だったが、時系列を並べ替えたミステリ風の趣向がきっちりとサスペンスを孕んでいて、ひと目見てその作風に惚れました。作・演出の中村暢明とともにユニットの役割を担う蒻崎今日子も、結構お気に入りで。というわけで期待もつのる新作は、徳川幕府ならぬ奥川幕府に、キリシタンならぬモリシタンが弾圧を受けていた時代を描く、パラレルワールド的なもうひとつの日本の近世を舞台にした時代劇である。
天下分け目の合戦からそう遠くない時代。かつては時の政府から保護を受けていたモリシタン教徒たちも、今では激しい弾圧を受けている。幕府の迫害を逃れ、寂れた寒村に流れ着いたモリシタン教徒の一団も、戦々恐々とした日々を送っている。村人が次々と殺される事件が起き、すわ幕府の追っ手がついにこの村に、というショックがたちまちのうち村人の中に広がっていく。
抵抗するか、逃げるかで意見が真っ二つにわれる村人たち。そこに、凄腕の素浪人が通りかかり、幕府にはむかうのならば、彼らに手助けをしてやってもいいと申し出る。用心棒となった彼の力で、落武者と化した足軽を捕らえるが、彼が幕府の人間か、そうでないかをめぐり、村人たちは益々混乱していく。そんな折、案内の女を連れた盲目の薬売りもやってきて、怪しい精力剤と引き換えに一宿一飯の恩義をモリシタンたちに乞うが。
なぞの井戸、いわくありげな登場人物たち(浪人、薬売りなど)など、8時台のテレビ時代劇のいいとこ取りのようなお面白さで、部分的には黒澤明の映画からの引用かと思わせる箇所もある。今回も終盤でハタと膝を打つミステリ風の意外性はあるし、パニックから自滅へと突き進んでいく集団ヒステリーを描くあたりも上手い。
ただし、弱点もあって、パラレルワールド風にする必然性があまり感じられない。時代背景やシチュエーションのほとんどを語り(字幕)で説明するのも、ちょっとお手軽過ぎると思う。そのあたりに、あとひと工夫ほしかったところだ。(120分)
 
■データ
蒻崎さんの佇まいやはり素敵ですねのマチネ/新宿御苑サンモールスタジオ
10・31〜11・9
脚本・演出/中村暢明
出演/三浦知之(InnocentSphere)、祥野獣一(獣劇隊)、岩☆ロック(岩☆ロック座)、平山寛人、前田彩子、ヤナカケイスケ(オッセルズ)、湯田昌次、椎谷陽一、爺隠才蔵(箱庭円舞曲)、長岡初奈(チャリT企画)、小安光海、菊地未来、成川知也、蒻崎今日子