(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「そまりえ〜或る模倣画家の苦悩〜」黒色綺譚カナリア派第九回公演

江戸川乱歩の時代に直結するレトロな昭和テイスト、ほのかなアングラの匂い。そんな空気をまといながらも、モダンでシャープな舞台を作り上げる黒色綺譚カナリア派は、気がついてみれば個人的に見逃せない劇団のひとつになっていて。
あけび(芝原弘)は、画壇の人気者赤熊百合(中川智明)の贋作ばかりを描く模倣画家だ。画商の矢車(中里順子)のいうがままに、百合をコピーし、贋作を繰り返している。あけびは、兄の大介(山下恵)、その妻藤江(向井孝成)と同居し、彼女を慕って遊びに来る侘助(牛水里美)という近所の少年もいる。
そんなあけびを、当の本人百合が訪ねてきて、その後行方知れずになるという事件が少し前に起きていた。警察の捜査も型通りのせいか、一向に百合はみつからない。業を煮やした弟子の青木(升ノゾミ)は、何度もあけびの住まいに足を運び、あけびの一家を糾弾するが、埒が明かない。しかしある時、家に飾られた百合の作品が話題に及ぶと、無口だったあけびが、堰を切ったように百合について語り始めた。
真と偽をめぐる物語だが、それと呼応するかのような男と女を入れ替えたさかしまの配役に、まず目を奪われる。歌舞伎の女形の例をひくまでもなく、芝居の世界では異なる性を演じるケースは特別でもなんでもないが、すべてのキャストでまるまる男女を入れ替えるというのは、珍しいのではないか。そこには、ジェンダーをめぐるひとつの実験のような面白さもある。
役者たちの達者さもあって、最初の違和感は物語の進行とともに霧散していくのだが、終幕間際、一瞬、性別を本来の性別に戻してみせる。観客を一瞬にして我に返らせるこのワンシーンが実に鮮やか。
物語としては、百合の独白が始まるあたりから、個人的には、これはミステリ的な展開になるのかと勝手に期待を膨らませたが、こちらは二通りの推理を披露するだけで終って、ちょっと半端な感じ。真相は藪の中というのも十分にアリだと思うが、推理の試行錯誤にもうちょっと拘って多重解決で締めくくれば、もう一歩先にいけただろう。まぁ、欲張りな要求であるのは、重々承知しているが。(105分)

■データ
ゲストが替わる別の日も気になる初日ソワレ/ザムザ阿佐ヶ谷
10・3〜10・13
作・演出/赤澤ムック
出演/芝原弘、山下恵、中里順子、牛水里美、升ノゾミ、赤澤ムック、向井孝成(燐光群)、中村真季子、吉田正
日替わりゲスト/中川智明