(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「STAR MAN」KAKUTA OTOKOMATSURI / 青山演劇LABO#001

「スターマン」は、言わずと知れたデビッド・ボウイがデビュー間もない70年代前半にヒットさせた曲の名。そのほぼ10年後にジョー・カーペンターが同題の映画を撮ってて、今ちょっと確認はできないけど、確かボウイの曲にインスパイアされたんじゃなかったっけ。漢祭=OTOKOMATSURIのパート2は、やはり同題で、期待の高まりもひとしおの桑原裕子書き下ろしだ。
キャンプ地で夫婦もの(成清正紀、桑原裕子)が経営するバンガロー。それも、わけあって今年が最後。そこに、泉という青年(若狭勝也)がふらりとやってくる。朝起きたら会社に行く気がなくなっていて、気がついたらここに来ていたという。ひとり客はお断り、という主人に対して、居合わせた常連の早由利(高山奈央子)は気を利かせて嘘をつき、助け舟を出した。泉に乞われるまま、早由利はこのキャンプ場で起きたある事件を語り始めた。
5年前、キャンプには場違いなひとりの青年(横山真二)がここにやってきた。彼の名は星次。薬の壜を握り締め、思いつめた態度の彼の心にふれ、自殺を思いとどまらせたのは、バンガローの手伝いをしている働き者の旬子(原扶貴子)だった。他人とのコミュニケーションが苦手な彼だったが、旬子からスターマンと呼ばれて心を開いた彼は、翌年、今度は働くためにキャンプ地を訪れる。
自然体の旬子に憧れをつのらせる星次。しかし、彼女にはおせっかいな妹(青木岳美)がいて、自分の元同級生(内田健介)とくっつけようと画策している。年はめぐり昨年のこと、キャンプ場では管理人夫妻や夫妻常連客が、ゴールインしたばかりのカップルを、賑やかにはやし立てている。結婚をしたふたりはいかにも嬉しそうだが、傍らにはそれを寂しい思いで眺める者がいた。
今回も唸らせてくれます、桑原裕子の脚本。意表をついた展開で観客を引きずりまわした挙句に、最後にそこはかとない切なさが湧き上がってくるストーリーだ。実は、結婚したカップルは誰と誰だったか、作者は焦らしに焦らして、なかなか観客に明かさない。しかし、それが明らかになってからは一転して風雲急で、雷鳴の中を男女の無理心中をめぐって劇的に展開していく。
激しいこのくだりの原扶貴子は実に素晴らしく、それまでの穏やかな貌をかなぐり捨てるかのように、鬼気迫る女の業を演じてみせる。ちょっと思い返してみれば、この設定でこの悲劇は必然であったことが判るのだけれど、終盤のクライマックスまでそれを観客に意識させないあたり、脚本は見事に練られている。
しかし、真に驚かされるのは、さらにこのあとの幕切れのシーンで、泉は早由利に対し、自分の正体を爽やかに語ってみせる。舞台から去っていく泉の姿に被さるように流れるボウイの「スターマン」。おお、これはハッピーエンドだと思いきや、実は、ここでも悲劇は繰り返されていたのですね。わたし、後日友人と話をするまで迂闊にも気づきませんでした。星次と泉は、まるで鏡像のように正反対に見えるけど、その実体は同じものだったのか、と愕然。そして戦慄。
ううむ、恐るべし、桑原裕子。(115分)

■データ
次はブラジルで女優としての桑原さんが見られるなと浮き立つ楽日マチネ/青山円形劇場
9・27〜10・5
作・演出/桑原裕子
出演/成清正紀、若狭勝也、原扶貴子、高山奈央子、松田昌樹、大枝佳織、横山真二、馬場恒行、桑原裕子、青木岳美、内田健介、小堀友里絵