(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「全身ちぎれ節」ピチチ5第五回公演

40歳以上の観客に配慮した大人割引、そして今回は三鷹というちょっと辺境な劇場所在地を考慮しての入場料設定と、何から何まで泣かせるピチチ5(クインテット)である。いや、何よりも、いつもその中身でちょっぴり泣かせてくれるピチチなのだ。
辞める辞めないの痴話げんかで今日も揉めている場末のぼったくりバーのママ(千葉雅子)とバーテン(オマンサタバサ)。気分の乱高下でやたらテンションの高い衝突を繰り返すふたりだが、映画監督のスカウトを受けたバーテンは命をかけた階段落ちにチャレンジすることに。(「蒲田の行進曲」)そのとなりは、マスター(植田裕一)がアルバイトの女の子(小林由梨)とふたりで切り盛りしているロックバー。久しぶりに訪ねてきたかつてのバンド仲間(小村裕次郎、三浦竜一)に、借金の魂胆を見抜かれてしまうマスター。しかし、彼には小学生の時に、忽然と現われたストーンズのキースからギターを貰ったという魂のよりどころがあって。(「国分寺キース・リチャーズ」)。才能ないのに、売れたい一心の自称小説家(三士幸敏)が、原稿を強奪するなどのとんでもない手段で文壇をのしていく。(「花巻のスカーフェイス」)。
とまぁ、一応、三本立てのオムニバスなのだが、巻き起こす強力なうねりで、密集するしかし異なる物語を、まるでひとつの物語のように絡めながら進行していく。呆れた展開(もちろん、褒め言葉です)の中に、琴線にふれる物語の織り込み方が秀逸なピチチだけれども、今回もギター少年/マスターの時空を越えたエピソードに泣かされる。
一方、必殺の大ネタも、星のホールのばかでかさに対抗するかのように、いつにも増して大掛かりで大胆不敵。冒頭から壁が迫ってくる大技が決まるし、クライマックスの本家顔負けの階段落ち(というか落下だね、あれは)もオマンサタバサの役者魂を見せられ、圧巻のひとこと。小劇場系が決まって苦戦するだだっ広さを、いともあっさりと制圧してみせるのは、あっぱれだ。
激しくも切ないピチチ5は今回も健在。いつにないロングラン公演にちょっと心配したが、大入り満員の好評でわたしの杞憂だったみたい。ほっ。(90分)

■データ
客いれの手際(おそらくは劇場スタッフ)にもう少しスキルアップがほしかったマチネ/三鷹市芸術文化センター 星のホール
9・12〜9・21
脚本・演出/福原充則
出演/植田裕一(蜜)、碓井清喜、オマンサタバサ(ゴキブリコンビナート)、三土幸敏(くねくねし)、三浦竜一、吉見匡雄、中島美紀(ポかリン記憶舎)、小林由梨(B-amiru)、小村裕次郎千葉雅子猫のホテル