(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「SISTERS」パルコ・プロデュース

春の阿佐ヶ谷スパイダースの公演@ベニサンピットでは、エドワード・オールビイをも彷彿とさせる不条理劇で観客を煙に巻いた長塚圭史の新作にして、渡英前の置き土産的な作品。パルコ劇場での作・演出は、「ラストショウ」以来3年ぶりとなる。
朽ち果てる日もそう遠くなさそうな鄙びたホテル。旧友の三田村(中村まこと)の懇願を受け、シェフの尾崎(田中哲司)が新婚の妻馨(松たか子)を連れてここを訪れたのは、都会のレストランで磨いた料理の腕を伝授するためだ。三田村は数ヶ月前に妻の死に見舞われ、古くからの使用人稔子(梅沢昌代)とともにホテルを切り盛りしていたが、極度の経営不振に陥っていた。
尾崎夫妻は到着後間もなく、ホテルに長期滞在する作家の神城父子がいることを知る。馨は、部屋にやってきた娘の美鳥(鈴木杏)と話をするうちに、彼女が父親から虐待を受けているのではないかと疑う。その疑いは、自らも少女時代に問題を抱える馨の中で急速に膨らみ、父親の礼二(吉田鋼太郎)に正面からそれをぶつけようとするが。
和製「シャイニング」とでもいいたくなるような、舞台上に出現したホテルの一室が素晴らしい。ふたつのシーンをそこに重ね、ふたりのヒロインが抱える性的な妄執をシンクロさせようとする長塚の意図をしっかりとくんだ舞台装置といえるだろう。
こうなると、どこか異様なヒロインの馨が、自分と似た境遇にある少女に触発され、自らのトラウマを暴走させていくというストーリーは、ほとんどお約束に近いともいえるが、松たか子の憑かれたような熱演は、その予想を遥かに上回るもので、ただただ凄いの一言。自分の世界へのひたすら没入していく松たか子の馨を観るだけでも十分な舞台だが、その主人公に呼応するかのように、狂気を覗かせる他の役者たちもいい芝居で絡んでみせる。
さらに、ヒロインの性的妄想を奔流のように溢れさせる演出には、ただただ唖然。観客を異世界へと押し流してしまうが如きクライマックスは、主演の松に、作・演出の長塚が応酬をみせたかのような激しさだ。性的なイメージが暗喩の域を越え、観客席へと押し寄せてくる圧巻を味わった。(135分)※東京、北九州の公演は終了。8月14日より新潟公演、20日より大阪公演あり。

■データ
イギリス留学の成果も大いに楽しみにしてまっせのソワレ/渋谷パルコ劇場
7・5〜8・3(東京公演)
作・演出/長塚圭史阿佐ヶ谷スパイダース
出演/松たか子鈴木杏田中哲司中村まこと猫のホテル)、梅沢昌代(シス・カンパニー)、吉田鋼太郎(AUN)