(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「みみ」東京ネジ第10回公演

テーマ、スタイルともに、一作ごとの意欲的な取り組みが楽しみな東京ネジ。さまざまな冒険をしても、クオリティで観客を裏切らないところが贔屓の理由で、個人的に新作が楽しみな劇団のひとつだ。
耳かきを生業としている女性みみみ(佐々木なふみ)。彼女の客は、耳が不自由な彼女に心に溜め込んだ胸の内を明かしていく。彼女を取材に訪れたライター(窪田道聰)は、仕事を忘れ、そんな彼女に惹かれることに。彼女はなぜ耳が聞こえなくなり、心を閉ざすに至ったのか。
子ども時代の初恋の人にも似た仕事場の上司(堀越涼)。強引な口説きもあって、引き摺られるように関係をもってしまうみみみ。しかし、彼には嫉妬深い妻(両角葉)がいて、さらには社内に別の浮気相手(中村真季子)までいたのだ。秘書(太田みち)は、上司の女性関係を逐一大げさに妻へ報告。身勝手で無責任な上司との関係は、次第にみみみを蝕んでいく。
舞台上では、無邪気な女王に扮する幼い頃のみみみ=雲子(佐々木富貴子)が犬(大塚秀記)を連れて奔放に飛び回り、まるでストーカーのようにサラリーマンの青年(印宮伸二)を追い回すセーラー服姿の少女(清水那保)もいる。そんなこんなで、いくつもの断片的なシーンが行き交い、前半はジグソーパズルのピースを撒き散らしたような展開が観客を困惑させる。
しかし、あらすじを整理してみてわかるのだけれど、物語は意外とシンプルで、やがて収まるべきところにエピソードは収まっていく。途中、とっ散らかした展開に、判らないまま終るのではという心配もよぎったりもするが、作者にしてみればそのあたりはきっちりと計算済みで、最後には全体像が浮かび上がってくる。
ありがちな男女関係の隘路(というよりは、男の甘えとわがまま)に翻弄されるヒロインをめぐる物語は、ファンタなテイストがあって、さながらダークなルイス・キャロルといった趣だが、やがてヒロインがとらわれた世界から抜け出すきっかけを掴むと、暗い世界に一筋の明るい光が差し込む。このカタルシスは、女性の視点ならではものだろう。
一方、わたしはサラリーマンとセーラー服の少女の関係が反転する終盤の展開が好きだ。このエピソードで、本作の隠々滅々とした暗い空気は、ポジティブなものに中和される幕切れがいい。(110分)
■データ
開演遅れのアナウンスと傾斜が緩くて低い芝居が観難い座席に一考をお願いしたい初日マチネ/アトリエヘリコプター
7・10〜7・17
作/佐々木なふみ 演出/佐々木香与子
出演/佐々木なふみ、佐々木富貴子、印宮伸二(劇団神馬)、太田みち、大塚秀記、窪田道聡(世界名作小劇場)、清水那保(DULL-COLORED POP)、両角葉、中村真季子、堀越涼(花組芝居