(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「Kiss me, deadly」smartball

名執健太郎のプロデュースユニットsmartballは、2006年「My Legendary Girlfriend」@王子小劇場で旗揚げ、翌年に「The Perfect Drug」@三鷹市芸術文化センター星のホール、そして今年王子小劇場に戻ってこの「Kiss me, deadly」と都合3作を上演したが、今回の公演終了後、ホームページで活動の終了が告知された。(楽日から4日後のこと)当日パンフには来春の次回公演も予告されてたのに。予定の行動なのか、なんとも潔い引き際だけれど、このユニットの行く末をもうちっと見てみたかったぞ、わたしは。
母親がすべて違う三姉妹。ヤクザを相手に銃を売りさばいている長女の尚(遠藤留奈)、無邪気に売春をやってる三女の純(深谷由梨香)。なぜかふたりに挟まれている次女の舞(石井舞)は、普通の高校生らしく、仲間とバンドをやったり、男の子に恋をしたりしている。入院していた父親が死んだ通夜の晩のこと、純はアブナイ商売の件で、電話の相手と怒鳴りあって揉めている。かと思えば、純は常連客(富田恭史)を連れ込み、喪服のままことに及んで。すべては、三人姉妹の居間であるガレージの中での出来事だ。
その三姉妹のガレージは、怪しい連中が出入りしている。尚の友人でヤクザと繋がりのある青年(河西祐介)や、賢者のような女乞食(白神美央)、巨乳の悪徳捜査官(石澤彩美)そして銃を売り込みにきた謎の中国女(大塚麻央)などなど。尚はその中国女から銃を買って、それを売りさばくことで金を稼ごうとしていた。ところが目算が外れ、中国マフィアや関西のヤクザが絡んで、厄介なことに。チンピラ(後藤剛範)を連れて乗り込んできた女ヤクザ(宮嶋美子)に脅かされ、銃をすべて持っていかれてしまう。
タイトルは、ミッキー・スピレーンの小説(邦題「燃える接吻」)から。主人公を姉妹たちに絞ったことで、これまでの作品の中でもきわだって鮮明な仕上がりとなった。数奇な運命を背負う三姉妹を、プライベートと事件の双方から描くことで、登場人物のノワールな心情が、よりくっきりと浮かび上がる。過去三作品の中では、もっともいい出来だと思う。
舞台空間をセパレートに使うのが、これまでの彼らの定石だったが、今回はワンシチュエーションに固定することによって、物語の焦点もぐっと絞られて、全体にシャープな作りになっている。
実は前半を見て、ヤクザと渡り合う役柄はやや荷が重いかな、と思った尚役の遠藤留奈だが、結局シロウトはヤクザに食い物にされてしまうという物語の着地点を見極めて、なるほど納得がいった。好演だと思う。ただし、わたしが見た日は、やや声が枯れ気味で、張り上げる声がほとんど出ていなかったのは残念。ほかに贔屓の石澤彩美は、やや役柄をもてあまし気味。宮嶋美子のヤクザ役は、いくらなんでも無理があると思った。
しかし、それにしても、どこに行くのか、名執健太郎。(125分)

■データ
終演後、近所のコンビニの前で買い物に来ていた大塚麻央とすれ違ったのがなんか愉快だったマチネ/王子小劇場
7・4〜7・14
作・演出/名執健太郎
出演/白神美央、遠藤留奈、宮嶋美子(風琴工房)、深谷由梨香(柿喰う客)、石井舞、石澤彩美、大塚麻央、富田恭史(jorro)、河西裕介(国分寺大人倶楽部)、尾倉ケント(アイサツ)、後藤剛範(害獣芝居)