(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「俺を縛れ!」柿喰う客第13回公演

公演インターバルの短さが、劇団の上り坂を物語っていて、今まさに見逃せない柿喰う客。フランス遠征にお付き合いできなかったのはやむなしとしても、4月の凱旋公演を仕事のせいで見逃したのは残念。さて、新作は佐藤佐吉演劇祭の皮切りとなるロングラン公演である。
徳川吉宗の陰で、あまり知られない9代将軍の家重。虚弱体質に加えて、脳性麻痺から来る言語障害。おまけに生来の遊び癖もあって、評判もイマイチ。そんなぱっとしない将軍の彼が、とんでもない制度を考え出した。名づけて、「キャラ令」。大名や配下の者たちのキャラクターを将軍が決め、皆はそれに従わなければならないというのがそのルールだ。
側近の大岡忠光を通じ、家重は大名たちのキャラクターを次々発していく。そんな中、裏切り大名なるキャラを拝命したのは、瀬戸際切羽詰丸という忠誠心篤いまじめな人物だった。自らの思いとは裏腹の命令を受け、悩みに悩んだ彼は、やむなく全国に散らばる不満分子や京都の公家らを巻き込み、主君家重に対して謀反を起こそうとするが。
マシンガンのように打ち出されていく台詞は、そもそもこの劇団の大きな武器だが、それも極まった感のある本作。台詞の嵐にややもすると置いてきぼりを喰らいそうになるが、この過剰な言葉の奔流が、物語のスピーディな展開と見事に連動している。
細部よりもテンポとスピードをという演出なのだろうが、役者たちの動きも悪くない。劇団員だけでなく、あちこちからの客演を交えて、数え切れないほどの登場人物が無駄なく物語を織り成していくあたりに、感心させられた。
主従上下関係の不条理というテーマは、今日的な意味合いも含んでいそうだが、そんなのどこかへ吹っ飛んでしまいそうになるテンションの高さが全編を貫く。2時間を軽く越える長丁場で、ダレる場面が殆どないのは、称えていいだろう。
個人的には、キリンバズーカでも目立っていたこゆび侍からの客演佐藤みゆきが、切れのいい台詞と動きで、さりげなく物語全体を支えているのが印象的だった。次回公演(なんと8月!)への客演も決まっているようで、とても楽しみだ。(135分)

■データ
次回公演は50人出演らしいにびっくりの追加公演マチネ/王子小劇場
6・18〜6・30
作・演出/中屋敷法仁
出演/高木エルム、七味まゆ味、コロ、玉置玲央、本郷剛史、中屋敷法仁、村上誠基、石橋宙男、浅見臣樹、梨澤慧以子、佐野功、花戸祐介、森桃子、川畑舞香、佐藤みゆき(こゆび侍)、こいけけいこ(リュカ.)、堀越涼(花組芝居)、丸川敬之(花組芝居)