(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「夕-ゆう-」東京セレソンデラックス2008夏

ベタで甘口のセレソンDX。いや、こう書くと悪口のようにも聞こえるだろうが、そのロマンチシズムのディープさは半端じゃない。ほら、ときどき無性に甘いものが食べたくなるときってあるでしょ?そんな感じで、わたしの心は、時にこのセレソンDXを欲するわけです。というわけで、2003年と2005年に上演された作品の再々演作に足を運ぶことに。
長崎にある海辺の町。海の家を兼ねた食堂の「あいかわ」には、名物の三兄弟らがいた。めちゃくちゃ喧嘩が強い三人は、不良たちからも恐れられている。高校生の主人公は、もっちゃんこと相川元弥(宅間孝行)、この家の次男坊だ。彼は、喧嘩を通じて仲良くなった親友の塩谷(永井大)といつもつるんでいる。
ある日のこと、ふたりの少女がもっちゃんたちの帰宅を待ち受けていた。憧れの塩谷に告白しようとする薫(いとうあいこ)と、その友人の夕(木下智恵)だった。薫に憧れるもっちゃんは、勝手に勘違いして舞い上がるが、薫の意中の人が塩谷だと知ってがっかり。しかし、その様子を傍らで見つめる隣家の幼馴染夕は、子どもの頃からもっちゃんに思いを寄せていた。いざとなると思いを告げることができない夕。すれ違いを繰り返すうちに歳月は流れ、やがてもっちゃんは塩谷と別れた薫と付き合い始めるが。
昨年観た再演の「歌姫」と並ぶ人気レパートリーのようだが、物語の切なさでは「歌姫」を上回ると断言。やや冗長なところがあった「歌姫」よりも、物語の求心力、観客へ訴求する力ともに強い。互いに好意を持ち、仲もいいのだけれど、恋愛となるとそれが噛み合っていかない不器用な男女をめぐって過ぎ行く日々を、いくつかのエピソードで描いていく。
冒頭のさりげないシーンの意味合いが、なるほどそういうことだったのかと明らかなっていく終盤は、判っていながら涙腺を大いに刺激される。脚本の出来もいいが、純情なヒロインを明るく演じきる木下智恵の好演に負うところも大きい。この人、これまでわたしはノーマークだったけど、ポジティブで爽やかな存在感が素晴らしい。
ただひとつ課題があるとすれば、主題を明らかにした後のエンディングだろうか。苦労のあとが伺われる幕切れだが、作りすぎの感があって、ちと苦しい。一応冒頭のシーンにその伏線があるのだが、もう少しすんなりと締めくくれる工夫を欲張りたいところだ。(135分)※東京公演は終わり、19日より大阪公演中。27日まで。

■データ
例によって人気者の役者目当てのおばさまたちにまざってのソワレ/新宿御苑シアターサンモール、
6・18〜7・13(東京公演)
作・演出/サタケミキオ
出演/宅間孝行永井大木下智恵(北区つかこうへい劇団)、いとうあいこ浜丘麻矢、杉田吉平、篠原あさみ、武藤晃子、丸山麗、川又麻衣子、水谷かおり、西村清孝、永田恵悟、万田ユースケ、越村友一