(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「て」ハイバイ

ハイバイとしては今年初だが、主宰の岩井は精力的で、「投げられやす〜い石」@ゴールデン街劇場、「おいでおいでぷす」@アトリエ春風舎に続く公演となる。お葬式をテーマに、得意の私演劇の世界を繰り広げる新作。
祖母の葬式に、久々に顔を揃えた一家。頼りない神父がとり仕切るぱっとしない葬式も終って、久しぶりに家族で酒でも呑みながら、語り合おうという段になって。
実はこの一家、よくある話だが、ややもすると横暴で暴力をふるう父親のせいで、昔から揉め事が絶えず、家族はお互いに不満を抱いている。とはいえ家族なんだから、と仲直りの機会を画策した姉の発案によるものだった。しかし呑みながらカラオケを始めたまでは良かったが、案の定、兄弟は言い争い、父親は意味もなく怒り始めて、仕舞いには母親が涙を流す事態に。
1000人の人物がいるとして、そのキャラクターを描き分けると言った場合、(芝居に限らず)せいぜい30前後のパターンがいいところで、ほとんどがそれに集約されてしまうのではないか。しかし、ここに登場する兄弟二人、姉妹二人、夫婦二人の合計六人は、それぞれがまさに1000人の中のひとりだ。1000人1000色とでも言いたくなるが、ひとりひとりになんともいえない実在感がある。岩井流私演劇の産物だと思う。
構造は、祖母の今わの際から葬式後までの時間の流れ(一部回想を含む)を、次男と長男それぞれの視点から二度繰り返される。ふたつの視点から、家族の感情や思いのたけをを立体的に浮かび上がらせる。繰り返すという手法も、シンプルながら効果的に使われる。
岩井の母親役は本作のキモで、事実かなり好評だったようだが、わたくし的には期待通りではあっても、それを上回る面白さはなかった気がする。これぐらい演じられて当然、というのが役者岩井秀人に対するわたしの認識。でもって、繰り返しになるが、彼(彼女?)を取り巻く登場人物と、彼らの人間模様の密度の高さにむしろ圧倒される。
その濃密さは、ややもすると息苦しさにも繋がるが、それを神父役の古舘と次男の友人役の町田が、いい味を出しながらガス抜きをしている。タイトルの「て」は、ほとんど物語のキーワードになりえていないが、その手を持って横たわる祖母役の永井が、やや手持ち無沙汰に思えたのがもったいない。(95分)

■データ
入団したての菊川嬢を見られなかったのが残念な初日ソワレ/下北沢駅前劇場
6・18〜6・23
作・演出/岩井秀人
出演/金子岳憲、永井若葉、岩井秀人、能島瑞穂(青年団)、町田水城(はえぎわ)、平原テツ、吉田亮、高橋周平、折原アキラ、上田遥、猪股俊明、古舘寛治青年団・サンプル)