(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「水平線の歩き方」演劇集団キャラメルボックス ハーフタイムシアター2008

去年俳優座で「猫と針」を観たけど、あれは恩田陸の脚本がお目当てだった。というわけで、実に久々にキャラメルボックスを観てみたくなって、閉館目前のシアターアプルへ。80年代の終わりから続いているハーフタイムシアター、まずは新作の「水平線の歩き方」から。
主人公の男(岡田達也)が、いつになく酔っ払って帰宅すると、自宅のマンションの一室では見知らぬ女性(岡田さつき)が彼を待ち受けていた。彼女は、なんと、男の母親だと名乗った。そんな馬鹿な、母は23年前に死んでいるのに。母子家庭で母親に先立たれた彼は、優しい叔父に引き取られ、それなりに幸せな半生を歩んできた。好きなラグビーで身を立て、知り合った女医(前田綾)と婚約もした。
しかし、長年の選手生活で彼の体はボロボロ、年齢的限界もあって、選手生命もそろそろ尽きようとしている。ラグビー一筋で生きてきたかれは、それをなかなか受け入れることができず、その晩大酒を呑んで帰宅したのも、そのことが原因だった。半信半疑ながら、やがて女が母親であることを受け入れる青年。しかし、母親が幽霊となって彼の前に現れたのには理由があった。
前半の丁々発止のやりとりの中から浮かび上がってくる濃やかな親子の情愛。これが下地となって、物語の中盤以降で明らかにされるある事実を、非常に感動的なものにしている。ジェントル・ゴーストストーリーとして秀逸。ややベタで、定石を出ないもどかしさもあるが、ハーフタイムシアターという短さの不自由を逆手にとる上手さで、コンパクトにまとめている。
水平線に例えられる、あの世とこの世の境界線のモチーフも鮮やか。キャラメルボックスの名作に新しいレパートリーを加えるにふさわしい出来映えだと思う。(60分)
■データ
1時間のインターバルが用足しに丁度いいソワレの1本目/新宿シアターアプル
6・8〜6・29(東京公演)
作・演出/成井豊
出演/岡田達也、岡田さつき、前田綾、青山千洋、左東広之、小多田直樹、久保田晶子、鍛治本大樹