(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「I do I want」空間ゼリーvol.10

空間ゼリーを観るようになったのは、昨年3月の「ゼリーな空間」からだから、まだ1年ちょっと、公演にして4回目だ。高校を舞台にした「ゼリーな空間」の高校生のビビッドな感覚に驚いたけど、世代的な近さに助けられてのことだろうと思ってました。しかし、その後も、民話、ホームドラマと、同時代に拘らずさまざまなタイプの作品を自在にこなしていくのに、改めて感心させられた。そんな彼女らが、再び学園ものにたち返っての新作。
大学は学園祭のさ中、外の賑わいをよそに、部室に溜まっていつものうだうだを繰り広げる男女のグループ。文芸部とは名ばかりで、いまや腐女子の溜まり場となってしまったクラブを仕切るのは、部長であり、人気ある同人誌を主宰するエリ(斎藤ナツ子)と、口の悪いタカコ(岡田あがさ)の二人。それを広い心で同じ学年のみかさ(塚田まい子)がフォローしている。
今日のタカコは、親が上京してきたとかで、やたらと機嫌が悪い。大学院に行っている大先輩にビールをおごらせ、まじめに文芸誌を出している男子部員を槍玉にあげたり、新人をいじめたり。エスカレートしたタカコの怒りは、ついに彼女を取り巻く仲間たちにも及び、次々喧嘩を売り、人間関係をぐしゃぐしゃにしてしまう。
描かれているのは、大学のサークルに限らず、集団にはありがちな摩擦なのだが、それがひとりの部員の逆鱗に触れるという形でエスカレートさせていくプロットは上手い。人間関係のもろさを次々とあげつらう展開の中、それを一手に引き受ける岡田あがさの力量も相当なもので、この人は達者なだけでなく、何かを演じるエネルギーに底知れないものがありますね。
吹き荒れた嵐のあと、エリとタカコというクラブの中心メンバーたちが、何かを変えることが困難な世の中に悲観するというのも、登場人物らの世代ならではのことだろう。そこで、みかさが見せるひとつのチャレンジが、青臭くも清々しい。自分の恋愛と世界を変えてやることの間には、実はめちゃくちゃ隔たりがある筈なのに、不思議な説得力を感じさせる魔法のような幕切れだ。(80分)

■データ
1年後の次回公演が本当に待ち遠しいマチネ/新宿御苑サンモールスタジオ
6・13〜6・22
作/坪田文  演出/深寅芥
出演/斎藤ナツ子、岡田あがさ、佐藤けいこ、細田喜加、北川裕子、猿田瑛、西田愛李、塚田まい子、安梨美羽、阿部イズム、成川知也、大竹甲一、半田周平