(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ハックルベリーにさよならを」演劇集団キャラメルボックス ハーフタイムシアター2008

話題になっている新宿歌舞伎町にあるコマ劇場の解体計画。それにともない、このシアターアプルも閉館になるのだけれど、正直、ちっとも残念な気がしない。コマにしても、アプルにしても、古いし、暗いし、きたないし、椅子だってオンボロ。そのくせチケット代だけは高い。再開発でリニューアル後の施設はどうなるか知らないが、そこに新しい劇場がオープンしてくれる方が、なんぼか嬉しい。でも、チケット代はさらに高くなるんだろうなぁ、嗚呼。
さて閑話休題で2本目。小6のケンジは、両親が離婚し、母親と二人暮らしをしている。そんな彼を夢中にしているのは、家庭教師の大学生コーキチくんの影響もあって、カヌーの魅力だ。しかし、危ないし、今は勉強が第一だと言って、母親は乗ることを許してくれない。そんな彼にとって楽しみなのは、月に一度父親と会う日。その日には、父親のマンションの近所にある池で、カヌーに乗れるからだ。
しかしその日、父親は若い女性をケンジに引き合わせようとする。カオルさんというその女性は、絵本作家の父を担当する編集者で、どうやらふたりは結婚したいようだ。母親のこと、そしてそんな身の回りの変化をケンジは受け入れることができない。そんな彼の気持ちを、カオルさんは心から大切に扱おうとする。しかし、ふたりへの反発を募らせるケンジは、迫り来る嵐の中、たったひとりで無茶な川下りを決行してしまう。
多少ネタバレになってしまうが、冒頭に主人公のモノローグがあって、彼が少年時代から抜けだせなってしまった呪縛の存在が明らかにされる。物語はそれをめぐる過去へと遡っていくのだが、観客はそれを眺めながらある違和感を抱く。そして、それが明らかになる後半は、お約束とはいえ成長の物語としての感動がある。同時上演の「水平線の歩き方」と同様に、ハーフタイムシアターという狭い枠組みに、ぴったり収まる仕掛けも心憎い。
しかし、いいですね、カオルさん役の岡内美喜子。いや、全体に役者は達者なんだが、岡内は伸びやかでありながら、愛情深いヒロイン役をビビッドに演じて、まったく違和感がない。ファンタジーのスレスレのリアリティを実に見事に表現してみせる。彼女の自然体な好演で、物語はさらに高みへと押し上げられた印象がある。(60分)
■データ
水をふんだんに使った演出も冴えるソワレ2本目/新宿シアターアプル
6・8〜6・29(東京公演)
作・演出/成井豊
出演/大内厚雄、實川貴美子、坂口理恵、岡内美喜子、篠田剛、多田直人、阿部祐介、井上麻美